第3話 恍惚
真っ暗闇の中、森を進み家路を帰る。風晴はこの地域では一人しかいない苗字の名前だ。
毎年のお盆に納骨堂で会う風晴は今は35歳若くしてお寺で仕え、今はお経を読みに地域を駆けまわる。
「なんでお坊さんなのに坊主じゃないの??」
これが初コンタクトだった。
「厳密にいうと違うからだよ。」
と微笑んで見せた。がその右腕は、あたかも頭をなでるように手を置いていたが。
実はものすごい力で頭を押さえつけていた。
そんなことを思い出していた時、前を歩いていた彼が振り返り
「そういえば、いつ帰ってきたんだい?仕事はやめたのかい?」
「仕事はもうやめました。今日ちょっと前に帰ってきました。」
僕ばぼそっと答えた。
「そうかい。ま、僕も経験あるよ。やっぱり田舎が一番さ。」
自販機を見つけ、小銭と煙草を取り出し寂し気に火をつけた。
「何か飲むかい?」
どうも、と言いながらコーヒーを買った。
ベンチ代わりにされてきたであろう。小さめのドラム缶に腰掛けコーヒーをあけた。
「もうおばあちゃんに心配かけるような歳じゃないだろう?」
「風晴さんはもう住職はやめられたんですか?」
「いんや、まだ寺にいるよ。僕にはこれが適職だからね。君もどうだい?」
「ぜ、善処しておきます」
風晴がふかす煙草の香りに、たまらず口がさびしくなった。
「僕も失礼しますね」
そっと煙草をポケットから取り出すと、
「うっわ!煙草吸えるのかい?百害あって一利なしだよ?」
「どの口がそんなこと、」
最後まで言わずに、煙草に火をつけた。
「ははっ。そうだよな。こりゃあいつか酒でも飲まないとな。」
まあ、でもそれもいいかもしれない、と少し思った。
風晴は急に座っていたドラム缶に立ち上がり、どこか遠くを見つめていた。鋭く威嚇するような目つきで。
「ヒロ君、おばあちゃんは家かい?」
「そうですけど。。。」
少し考える間が空いた。
「先に行ってるよ。」
といい。風晴は僕に空き缶をよこし、どこかへ走り出した。
とても三十路には思えないくらいのスピードで。
「風晴さん、どうしたんだろう。」
つけているたばこを忘れるくらい急なことだった。
その瞬間、背筋がぞっとするような寒気に襲われた。あたりの木々が揺れ風がどよめいた。
全身で不吉な予感を感じた。
ハッとすると黒い影が背後からでてきて
「行って」
と風晴が走った方向を指さした。
僕は瞬く間に走った。がむしゃらに。ぼくだけしか知らない最短ルートを、田んぼのあぜ道を飛び越えなら。
ここで人生は変わった。後悔は過去の産物、悲劇の幕開けのはあまりに唐突であっけなかった。でも死は後悔に類似する。死後、その後悔は体と精神をむしばみ未来に干渉する力になる。
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