13 砂の海
戦艦≪ヒュペル≫の厨房。
フライパンに卵を流し、ぐるぐるとかき混ぜてふわふわを演出させると、卵をフライパンの端に合わせてまあるくなぞっていく。
そこにチキンライスを少量投入し、フライパンを傾けとんとんと叩きつつ丸くしていく。充分に丸くなった卵をみて、満足そうに副艦長は笑った。
「よぅし、上出来だ」
呟いて、皿にオムライスを乗っける。その上からケチャップで顔文字を書いて……
「さぁできた。元副艦長特製おいしいオムライス!」
にっこり笑顔で、その様子を見ていた少女にどうぞ、と渡す。少女は嫌々ながらその皿を受け取る。
「見てもらった通り、毒とかは入ってないから安心して食べなよ」
「それは分かりましたデスけど、私猿が作った料理は食べたくないデス」
「僕も猿かぁ……」
がっくりと肩を落とす副艦長。いや、今は元副艦長であった。砲弾を打つまではよかったものの、諸々の始末の為に今はその前線から退いていた。
現在はこのように、あの翼の少女に料理をふるまう日々を送っていた。
彼女の背中にもう翼はない。鮫の細胞により、細胞が活性化され生み出された翼は鮫の死により暴走する感情とともに綺麗に消えたのだ。
少女はオムライスをじっと見つつ、瞬きをしながらも目を離さない。
「でも……まぁお姉様のご友人デスから、猿は猿でも猿人くらいに格上げしてあげるデスよ」
悔しそうにつぶやくところをみると、オムライスは思った以上に美味しそうに見えたらしかった。
少女はオムライスを一口ほおばり、笑顔を見せそうになるが、すぐに顔を不機嫌そうな顔に戻す。副艦長はその様子に、にこやかに頬杖をついていた。
戦艦≪ヒュペル≫は現在、港町に停泊していた。何事もない、空も晴れた平和そのものの日であった。
「おばちゃん、豚丼8つ」
港町の食堂に入った男が言う。食堂の女店主は首を傾げ、男の後ろにいる少女の姿を見る。
「二つじゃなくてかい?」
「こいつが7杯食って、俺が一杯だよ。頼む」
男の言葉に、不思議そうにしながらも女店主は厨房に戻っていく。女の方はにこにこしたまま、きょろきょろと店内を見回している。
その首根っこをひょい、とひっぱり男は進む。
二人は適当な席に向かい合って座った。
女はそわそわと落ち着かない様子。
「ここにあるんですね……ね、念願の」
「豚丼がな」
にやり、と男は笑う。
それに少女は海を連想させる蒼の瞳を輝かせた。
「おごってくれるんですねっ」
「約束しちまったからなぁ……。ま、お前が喜んでくれるなら安いもんだ」
財布の中身をちょっと確認して、青ざめながら男は言う。少女はちょっと身を乗り出して男の顔を見る。
「ありがとう、おじさま」
「そのぅ……そのおじさまって呼び方なんだが」
「うん」
「おれ、こうみえてまだ三十も前半なんだよ」
頬をかき、恥ずかしがるように男は言う。
女の目が丸くなり、動きが止まった。
「え、そうなんですか」
「本当だよ。お兄さん嘘つかない」
「ああ……ですけど、おじさまのことお兄さんって呼び方に変えるのも違和感ありますし……だからと言っておじさまのまんまってのもよくありませんよね……? うーん」
少女は腕を組み、しばらく唸りながら悩み続ける。
そして、ぽんっと手を叩いた。
これなら間違いないでしょう、と納得したようにウィンクをする。
「ヴォルグでいいじゃないですか」
勢いよくテーブルを埋め尽くすように豚丼がのせられた。
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