第4話 違和感の正体

 一瞬、妻の言っていることが理解できなかった。


燃料パイプに穴が?


この目下に広がる国立公園にベトベトの油を漏らしながら飛行しているということか。


「君はこの飛行機が墜落するって言うのかい?そんなわけないさ。


燃料が漏れているなら近くの空港に不時着するとか、LAX空港に引き返すとか、何かしらの手段をとるものさ。わざわざ墜落するのがわかっていて操縦を続けるパイロットはいやしないさ。」


 女はまるで獲物を捕らえたコウモリのような表情を夫につきつけた。


「いいえ、この飛行機はきっと墜落しますわ。この辺はロッキー山脈が続いていて、近くに不時着できる空港はないし、引き返すための燃料もないんですもの!」


 「馬鹿だね君は。それなら、周りの乗客がこんなに落ち着いていられる道理がないじゃないか。何か勘違いをしているか、だまされているんだよ、君は。」


 男はビールを一口飲んだ。


 「ああ、どうかわかってください。私が話を聞いたのはそれだけではないのですから。


この飛行機には乗客、乗務員合わせて60人くらい乗っているらしいの。


けれどもパラシュートはその半分くらいしかないらしいの!」


 「何だって?」


 妻は私の顔にこれ以上できないほど、それこそ、ハネムーン中のどの夜にも比類しないほどに顔を寄せてきて、腹に力を入れてささやいた。


 「トイレの奥でスチワーデスがパラシュートを売っているの。


一人ずつ話伝いに広がって、隣の席の乗客に気づかれないように、何もない顔をしてパラシュートを買いに行っているのよ。パラシュートを身につけた人たちはもうこの飛行機から非難しているわ。」


 一瞬、背中につめたいものが走った気がした。


そういえば、先ほど感じたこの機内の違和感の正体。


そうか、乗客の数が減っているのだ。


搭乗したときはかなりの席が乗客で占有されていたが、今は半分くらいしかいない。トイレに行っているにしても、これだけの数の人々がいないのは確かに不自然だ。


そうだとすれば乗客はどこへ消えた?どこにもいないじゃないか!


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