猫が来る家

 その家は山深いところにある。もっともっと山奥の入り口ぐらいのところなので、そこに住む人はそんなに山奥だとは思っていないかもしれない。家にはかつて白い猫がいた。真っ白で、そのまんま「シロ」と呼ばれていた。外見はすごくかわいいのだが、ものすごく乱暴で凶暴だった。自分はめったに会えないし、猫や動物になれていないから、余計に反感を買ったのだろう。怒られてひっかかれそうなこともあった。いっしょに住んでいる人たちには慣れていたが、いま思えば、接し方がそれぞれ違っていた気がする。エサをくれる人にはいつもエサをねだりにいって、だっこしてもらえる人にはだっこしてもらって、いちばんかまわないだろう人にふみふみしていた。家の中でみかけるときは、夏でも冬でも寝ていた。アクティブなときは出かけるから、目撃できない。猫は自由で、勝手気ままに出入りして、好きなときに好きなところにいた。ふらっと出て行っていつのまにか帰ってきてソファあの一角で寝ている。夏は客間の布団を堂々占拠して、目が合うと四肢をおっ広げたままにらんでくる。冬はコタツのなかにいたがった。さいごに会った頃は、ぼろぼろにやせ細って、ますます寝てばかりだった。

 猫が天寿をまっとうして、すぐに次の猫を飼ったほうがいいのではないかと思っていたが、とちゅうから犬もくわわっていたこともあって、新顔は現れなかった。それからいろいろあれこれあって、犬も家を離れて別のおうちにいる。

 少し落ち着いたころに、二匹の猫があらわれていた。飼っているわけではないという。エサを与えている人にだけ、距離を近づけるが、他の人がいたら近づかないし、基本的には警戒している。それでも、立派なじゃこをちらつかせると、じりじりと、子どものほうが、誘惑に負けて厳戒態勢ながら近づいてくる。母親は茶色で、もう仔猫ではない子どもは白黒だから、ぜんぜん似ていない。母親の警戒は強い。

 嘘みたいな疫病が流行って、家や街に閉じ込められているけれど、緑の潤い豊かなその家には、ときおり親戚が集まったりしている。猫たちはいつのまにか、ときおりやってくる人たちに持ち上げられるほどになれている。でも名前はまだないままらしい。そのままに、にゃんことかにゃん太郎とか、適当にその都度各自好きなように呼ばれているのかもしれない。名前をつけたら愛着がわく。名前はつけたくないのかもしれない。

 いつ彼らに会えるだろう。期待しているよりはだいぶ先かもしれない。猫たちは、途切れぬ川の流れの音をききながら、濃厚な緑なかで、エサをもらって抱っこされて暮らしている。

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(仮)あなたはカバンの中にいくつハンバーガを持っていますか ナカムラサキカオルコ @chaoruko

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