美人で孤高な銀髪碧眼クラスメイトが、実はお喋りな変態だった件。
天江龍(旧ペンネーム明石龍之介)
プロローグ 桐島イリア
桐島イリアは一言で言えば美人である。
イギリス人の母を持つ彼女は、白い肌に銀色の髪―――正確にはプラチナブロンドと言うらしいがそんな目立つ髪と青い瞳を持つ。髪型はおおむねポニーテールで通している。
更には瑞々しい唇、大きくも整った胸元から折れそうな腰。細くしなやかでありながらも実に女性らしいやわらかそうな足と、上から下まで完璧な容姿である。
そんな彼女に憧れた人間が多かったのは必然。
もちろん彼女はクラスのみならず学校の人気者だった。
なぜいちいち過去形なのかといえば、それはもちろん過去の出来事であるからだ。
憧れだった、人気者だった。
今はその逆、むしろ疎まれる存在である。
理由はおそらく彼女の性格にある。
ツンデレ、と呼ぶにしても少し尖りすぎた性根は男子のみならず女子生徒すら寄せ付けない。
誰が話しかけても一言「何?」とだけ返す。
まるでそれしか言えない人形の、いやロボットのようにただ一言。
加えて大きな瞳を極限まで細め、蔑むように相手を睨む。
そんな彼女の態度を皆が恐れ、そして忌み嫌うようになるまでにそう時間はかからなかった。
いつの頃かついたあだ名は『冷血の魔女』。
なんともまぁ中二病全開なそれは、命名した奴の稚拙さを露呈するようなものではあるが、しっくりはきていた。
それでもあれだけの見た目だ。勇気あるというか無謀な男子生徒の何人かが彼女に神風アタックを仕掛けたこともあるそうだが、例外なく粉砕、玉砕、大喝采だったという。
大喝采は個人的な嫌味だが、彼女に告白した後の人間は皆女性恐怖症に陥っていったそう。
クラスメイトの会話を拾っただけの情報なので詳細は省くが桐島の対応は相当にひどいものらしく、そんな彼女に近づく輩は徐々にと言わず減っていく。
今では誰も、彼女に話しかけないし見ようともしない。
そんな彼女だが、頭の出来は相当なものでいつも学年トップ。
俺たちの通う
そんな勉強熱心な生徒たちの集う学校で創立以来の秀才と呼ばれる彼女の名前は、誰もが一度は耳にするほどである。
ただ、抜きんでた優秀さが彼女をより一層孤独に落としたとも言える。
ちょっと勉強ができるからって調子に乗るな、という声は幾度となく聞こえてきた。
正直妬みにしか聞こえないが、それでもやはり彼女の態度は上から目線というやつに見えるのだろう。
最も、受験勉強で完全に燃焼しつくされた学校の落ちこぼれである俺は彼女を妬むレベルにまで達しておらず、見下されて当然なのでなんとも思わないわけだが。
ちなみに俺は彼女と一年生の時も、そして二年生になった今年も同じクラスである。
そして孤高な彼女のことをいつも遠くで見つめている。
そこは現在進行形。なぜ彼女がそこまで人に冷たくするのかという疑問の気持ちが俺をそうさせる。ありていに言えば気になる存在というわけだが、恋とかそんなのではないと思っている。
あと、目の保養という要素も少しだけ、ほんの少しだけ含んでいることは別に否定しない。
どうしてか。なんてことは直接本人に訊けよという話なのだろうが、実は彼女の性格云々以前に俺は彼女に話しかけたことすらない。
声をかける度胸がないまま、彼女の冷血な噂ばかりが耳に届きいつしか俺はそのタイミングを失っていた。
一度、間接的に彼女に関わったことがあるのだが、その時も実際に彼女と言葉を交わすことはなかった。
入学したての頃は本当に皆の注目を一身に集め、彼女も笑顔で話していたと記憶しているが、それすらも俺の勘違いだったのかと思うほど、今の彼女は寡黙で、孤独だ。
ただ偶然クラスメイトになっただけの綺麗な女子。
きっと大人になった時、そんな彼女のことなんて思い出すことはない。
桐島イリアという存在は、俺にとってはその程度のものであった。
さて。ではなぜこんなにも彼女のことを長く熱く語っているのか。
それには少々理由がある。
今からほんの一時間ほど前の出来事である。
放課後、一度職員室に提出物を持って行った後、再び教室に戻ろうと早足に階段を降りていたところ、優雅な立ち姿で歩く彼女の姿が階段の下に見えた。
そのあまりに綺麗な姿に一瞬立ち止まった。
見蕩れていた、という言い方が正しいかもしれない。
それくらい俺は彼女をじっと見つめていた。
見慣れていたつもりだったが、踊り場の窓から漏れる斜陽を背負う彼女がとても神秘的で、本当にこの世のものかと疑うほど。大袈裟でもなんでもなくそう思ったのだ。
そんな彼女は立ち止まる俺になど目もくれず階段をカツカツと音を立てて上がってくる。
そして俺の前をスッと過ぎた。
そこは流石の冷血か、まるで俺が見えていないかのような振る舞いだった。
一瞬、彼女が横で「スンッ」と鼻をすすった音だけが耳に残る。
そのまま次の階段を登ろうとする彼女は、階段に足をかけたところで止まる。
そして俺を見た。
無言だったが、その強い目力は俺を睨んでいるように見えた。
「あ、あの……」
「……」
蛇に睨まれた蛙、とはこのことだろう。
ジッと俺を睨んで離さない彼女から目を逸らすことができずにいると、足を戻して彼女がこっちに向かおうとする。
同時に彼女は持っていた鞄に手を入れて何かを取り出そうとした。
その時だった。
「あ」
と声をあげたのは俺の方。
彼女のスカートを窓からの隙間風がふわりと持ち上げた。
偶然の産物。
風の悪戯。
ラッキースケベ。
とはならなかった。
俺は見てしまった。
そこに本来あるべきものがないことを。
そう。
彼女は。
ノーパンだった。
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