はじめまして、サポート妖精のサポヨさん - 1
アルバイトNPC用の『Anagogic Ideal for NPC』にログインすると、そこは土の壁と天井に囲まれた四角い部屋だった。
部屋の中央には各辺1メートル強くらいの立方体の台。
その上に縦横1メートルと高さ10センチほどの、半透明の分厚い板のような物が置いてある。
ダンジョン管理用のインターフェース的なやつだろう。たぶん。
で、その板? と僕の間に、体長15cmほどで、赤縁眼鏡にレディーススーツの妖精さんが浮いていた。
「初めまして。ここはあなたのダンジョンの最奥、コアルーム。
どうぞよろしくお願いいたします」
聞いたことのあるような声の妖精さんだった。
「えっと、ニャイリアちゃん?」
「………………いえ、サポヨです」
と言われても、ニャイリアちゃん絶対音感の持ち主である僕にはわかる。
ギルドには週に2度しか出勤していないから、他の日はどこにいるのかと思っていたけれど……中の人が別のNPCを担当していたのか。
地味ながら重要そうな役を兼任してるし、社員さんなのかな?
まぁ何でもいいか。中の人が同じであろうと、ニャイリアちゃんはニャイリアちゃんだし、サポヨさんはサポヨさんだ。
「わかりました。よろしくお願いします、サポヨさん」
「はい、よろしくお願いします……」
なんだか若干サポヨさんの顔色が赤みがかっている気がするが、気にしない方が良いだろう。
数秒の沈黙。
サポヨさんは、赤縁の眼鏡をクイッと上げて、スーツの襟をピッと直す。
仕切り直し的なアレだと思う。
「改めてユーカリ……げふん、小森さんの業務内容を説明いたします」
「はい、お願いします」
名前を覚えてもらうのに半年もかかったけど、一度覚えたら覚えたで、今度は呼んじゃ駄目な所でうっかり漏れちゃうのか。
中の人が人間だと知った今では、ちょっと申し訳ない気にもなる。
***
諸々の設定を終え、僕が最初に作ったダンジョンは、可能な限りプレイヤーの神経を逆撫でする構造にした。
所持コスト内では何をやっても良いけれど、一応クリアは可能な状態にしなければならないということで、勿論テストプレイもした。
設定可能範囲の全域が狭い通路なので、奇襲や罠を警戒しながらマップを埋めると2泊3日はかかるだろう、長大な初心者ダンジョンだ。
実際には中断可能なセーフゾーンは設けていないから、連続プレイ時間制限の都合で、6時間で強制ログアウトになるんだけど。
なお、作った僕達は奇襲も罠も仕掛けていないことを知っているから、全力で走って5時間半でクリアした。
正解ルートを知っている人間が、全速力で走り続けて、5時間半だ。
「く……クソゲー……」
付き合ってくれたサポヨさんには本当に申し訳ないんだけど、これも生活費のためなんです。
「何が一番嫌でした?」
「常に生臭いのと、BGMが不協和音なのが……」
「なるほど、その辺は強化していきたいですね」
「えぇ……」
ダンジョン内のBGMが自作できるっていうから、鼻歌を録り重ねて適当に作ったんだけど、それも案外有効だったらしい。
生まれて初めて音痴が役に立ったなぁ。
「ではこんな感じで、ダンジョンオープンとしましょう」
かくして、僕のAIとしてのお仕事が始まった。
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