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 地面に投げ落とされたニンゲンのニンロッドは、背中で何かが潰れる嫌な感触と、生温かい湿り気に気が付いた。

 何だかとても嫌な予想が浮かんだが、一旦気にしないことにした。

 今は目の前の酔っ払いから逃げるのが先だ。


 胸倉を掴まれていた手が離れたのを良いことに、ニンロッドは道の上を這うようにして、酔っ払いとは逆の方向へ逃げ出した。


「うぉらぁ、待ちやぁれぇ!!」


 痛む身体で速さは出ないが、それでも呂律の回らない酔っ払いよりはマシだ。

 相手は真っ直ぐ歩くこともできない。

 たまたま道で行き交って難癖を付けられただけだから、顔を覚えられてもいないだろう。

 それ以前に、あの酔い様では記憶が残っているかも怪しい。


 大きな十字路を曲がり、酔っ払いの姿が見えなくなった所で、ニンロッドは大きく息を吐いた。


「ぜぇ、ぜぇ……災、難、だった、なぁ……」


 田舎から出てきたばかりのニンロッドは職場で上手くニンゲン関係を作れず、今日もまたいくつか、嫌なことがあった。

 それで自棄酒を飲みに来た酒場で、果実ジュースを引っ掛けられて。

 不愉快な気分での帰り道、その渋面を見知らぬ酔っ払いに見咎められ、絡まれたのだ。


「胸倉を掴んだ手が濡れたとかって言われても、まず掴むのが悪いだろ……」


 今日は本当に災難続きだ。

 そして恐らく、背中にはまた別の、何か生き物を潰した血がついているのだろう。

 ニンロッドは疲れと酒のせいもあり、何もかもが嫌になってきた。


「今日はもう、ここで寝ちゃうか」


 どうせ家に帰っても誰もいない、一人暮らしの身だ。

 今夜は特別寒くもないし、道で寝たって死にはすまい。


「おやすみぃ……」


 そうしてそのまま、路上に手枕をして眠ってしまった。


 ところが、ここでニンロッドにとってもう一つ、不運なことが起こる。

 ニンロッドが眠りについてからすぐ、その道を一頭のローラードラゴンが通過したのだ。

 ニンロッドはぺしゃんこにひしゃげて、地面の一部となった。


 ニンロッドが死んだので、たった今道をならし、ニンロッドを圧死させたローラードラゴンへと視点を移動する。

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