夜道にて

夜道にて 1/3

 ネズミのチューベルトは、堂々とした足取りで、大きなニンゲンの巣の表通りを歩いていた。


 これが昼日中なら、棒や石を持ったニンゲンに追い回されるところだが、今は真夜中だ。

 明るい内はうじゃうじゃと行き交うニンゲン達も、月の下ではめったに出歩かない。

 寒いからか、暗いからかは知らないが、少し前まで山で暮らしていたチューベルトにとっては何ということもない。

 ニンゲンの巣は、ニンゲン達の寝床の外でも山中よりかは温かい状態し、表通り沿いは夜でも明かりが漏れている。


 表通りは、昼間のチューベルトが過ごす裏通りと違って、食べ物も落ちていなければ、隠れ場所もあまりない。

 けれどチューベルトは、この静かで平らな広い道を独占して歩く、この時間が、ただ何となく好きだった。


「……〜〜〜〜!!」


そんな静かな時間を、不意に大きな唸り声が掻き乱す。


「〜〜〜〜〜……」

「〜〜〜〜、〜〜〜〜ッ!!」


 チューベルトの歩く先で、2匹のニンゲンが何やら争っていたのだ。

 大きい方のニンゲンが、前足で小さい方のニンゲンを掴み上げている。


 普段なら慌てて逃げるチューベルトだが、今は夜だ。

 ニンゲンは夜目が利かないし、近くに寄っても気付かれまい。

 静かな夜の散歩を邪魔されたのだから、野次馬をしてからかってやろう、なんて考えた。


「〜〜〜〜! 〜〜〜〜!」

「〜〜〜……?」

「〜〜〜〜〜〜ッ!!」


 大きい方のニンゲンの身体からは酒の臭いがした。

 小さい方のニンゲンからは、何やら甘い果物の匂い。


 ネズミは夜目は利いても遠くは見えない。

 果物の汁でも付いているなら、ゆさゆさ揺られた拍子に雫が落ちて来ないだろうか。


 そんな風にチューベルトが眺めていると、急に、小さい方のニンゲンの背中が大きくなった。


 ああ、違った、とチューベルトは気が付く。

 背中が大きくなったのではなくて、近付いてきたのか。


 気付いたときには、ニンゲンの背中はチューベルトの視野のすべてを埋め尽くしており。

 その視覚的な圧迫感は、すぐに物理的な圧迫感へと変わった。


 ぽしゃり、と音を立ててチューベルトは潰れた。


 チューベルトが死んだので、たった今地面に投げ落とされ、ネズミを圧死させたニンゲンへと視点を移動する。

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