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 2017年10月、ハワイ州マウイ島のハレアカラ山頂に設置された天体望遠鏡が見慣れない天体を発見した。

 当初は彗星と思われたその天体は、観測によって太陽の重力に縛られない恒星間天体であることが判明。数千年に渡る天文史において初の発見に、界隈は湧いた。

 当初は葉巻型と思われた天体は、更に詳細な観測により、ドライバー型であることが判明。人工物とも思える形状から「地球外文明の探査船では無いか」とする説も生まれたが、専門の研究チームによって否定されたため、一般には陰謀論レベルでしか広まらなかった。地球に衝突する軌道では無かったことから、特に天文分野やオカルト分野に興味を持たない者は、その存在すら知らずに終わるはずだった。

 そのドライバー型天体が、不自然な加速と軌道修正により、突如地球圏に突入するまでは。


 天体はある中規模都市に向けて加速、落下した。あまりにも突然のことであり、警報の発令にも手間取ったことから、近隣住民ですら落下の瞬間までその接近を知らなかった。人々はスマートフォンを見るので忙しく、空を見上げる暇が無かったのだ。


「まさか、こんな所に異空間に繋がる次元の裂け目があるとはなぁ」


 半ばほど地面に捩じ込まれた男が呟く。

 折よくその場に前世がネジだった男がいなければ、地表が高次元的に剥離して内部にあった次元の裂け目が露出し、いずれか圧力の大きい方の世界が飲み込まれ、小さい方の世界は押し潰されていた所だ。

 偶然太陽系付近を巡回していたドライバー型巡視船が次元の裂け目とネジを観測し、ネジ側からの救援要請おむかえと判断、即時対応したことで世界は救われたのである。


「免許はどうするのよ。教習所の卒業証明書の有効期限は一年だけなのよ」

「一年以内に穴が塞がったら受けるけど……それまでに詰め込んだ学科内容が抜けそう」

「ネジがドライバーになるのは、まだしばらく先ね」


 男の知人である女が、呆れたように溜息をつく。


「そっちは免許取れたの?」

「お陰様でね」


 女はドライバー型天体落下事件の後、後ろ髪を引かれながらも通常運行で現れたバスに乗って試験場へ向かい、無事に本免許の取得を果たしていた。これは彼女が薄情なのではなく、現場検証に来た警官に追い払われて、出来ることが他になかったためである。


「考えてみたら、ドライバーなんて一人いたら良いよな。僕免許取るのやめようかな」


 男は呑気にそんなことを言い始めた。

 元々特に車に乗る用事もなかったのに、付き合いでそれなりの費用と時間をかけて教習所に通った女は、それなりに腹を立てたらしい。


「実は私の前世って1番ウッドドライバーなのよね」


 なお、この発言は偽証である。


「ちょうどいいから、そのよく弾みそうな頭にティーショットを決めてやろうかしら」

「えっえっどゆこと?」

「ちゃー……しゅー……」

「えっ待って怖い怖い」


 ヘッドを振りかぶった女は、「めーん」の声と共にそれを男の頭に振り下ろし、軽くダフッた。


<了>

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