短篇小説集「ョゴルィンッミペゥ」

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　隣の席で前野さんと後野さんが、何だか突然、クイズバトルのようなことを始めた。

　バトルと言っても、出題者は一方的に前野さんだ。

　僕は机に伏せたまま、何となく、二人の話を聞いていた。

「スリランカの首都」

　スリジャヤワルダナプラコッテ。

「スリ・ジャヤワルダナプラ・コッテ」

　つい反射的に、心の中で答えてしまう。

「じゃあブルネイ・ダルサラームの首都は？」

　プノンペン。

「……バンダル・スリ・ブガワン」

　違うわ。プノンペンはカンボジアだ。

　誰も聞いてないのに、ちょっと恥ずかしい。

「ピカソのフルネームは？」

　パブロなんとかピカソ。わからん。

「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ……デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス……クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ……サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」

　おお、思ったより長いぞ。

　合ってるのかどうかわからんけど、すごいな後野さん。

「寿限無のフルネームは？」

　ジュゲム、ジュゲム、ゴコウの擦り切れ、海砂利水魚のシューリンガン？

「寿限無寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末……食う寝る所に住む所、ヤブラコージのブラコージ、パイポパイポパイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命の長助くん」

　くん、が可愛い。

「恵比寿駅の両隣は？」

　恵比寿駅って何県？

「あー……渋谷と目黒」

　そんな都会なのか。

「マウンテンゴリラの学名は？」

　ゴリラゴリラゴリラ。

「ゴリラ・ゴリラ……ベリンゲイ？」

　えっ、ベリンゲイ誰。

　でも合ってるっぽいな。

　前野さんが何も言わないしな。

「真！超絶竜巻真空斬のコマンドは？」

　6321463214+P……いや待てよ、どの真！超絶竜巻真空斬だ？

「6321463214+P……あ、ごめん。どの？」

　後野さんも同じことに引っ掛かったようだ。

　しかし、前野さんは何も答えない。

「ねぇ前野、これ、何？」

　ええ……わからないでやってたのか……。

　いや、僕もだけどさ……。

「逆に聞くけど、何なら覚えてないの？」

　そして、前野さんはやはり、後野さんの疑問には答えなかった。

　後野さんは怒っていいと思うけど、これでこの二人仲良いんだよな。

「歴代徳川将軍とか、トム・ハンクス主演映画を10個言えとか、あとあれ、2bc分のナントカみたいなやつ」

　家康秀忠家光家綱綱吉、家宣家継吉宗家重家治、家斉家慶家定家茂慶喜。

　フォレストガンプ、ダヴィンチコード、グレイハウンド、ハドソン川、レディキラーズ、プライベートライアン……メグ・ライアンのやつ何だっけ。めぐり逢えたら？　ユーガットメールもか。あとジョー満月の島へ行く。月と言えばアポロ13。ターミナル。10個くらい出たかな。

　2bc分のナントカって余弦定理か。b^2+c^2-a^2。

「すらすら出てくるなぁ」

　一瞬、口に出てたかと焦った。

「覚えてなかった、ってのは覚えてるから」

　そう、そんなわけはない。

　何せ、これは前野さんと後野さんの会話であって、僕と二人の会話では、ないのだ。

＜了＞