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 ――その日の夕方に流れたニュースは、他国には何の影響も及ぼさない日本ローカルの事件でありながら、世界中のSNSでちょっとしたトレンドを作り出した。


《本日午後4時頃、大阪府大阪市の線路上で無職の20歳男性が腕力で新幹線を止める事件が発生しました―――》


 ――人が新幹線を止めることなど可能なのか?

 ――それも腕力で?

 ――流石にフェイクニュースでは?


《男は現行犯で鉄道警察に取り押さえられましたが、警察官を筋肉で弾き飛ばすこともなく、容疑を全面的に認めている模様です―――》


 ――ニュースのなかで流れた映像、頭からジャケットを被せられた男のシルエットは、確かに新幹線を止め得ると、人々に信じさせる物だった。


《男は2週間前に勤め先の会社を解雇され、毎日自宅でトレーニングをして暮らしていたとのことで―――》


 ――元リーマンが新幹線を止めた?

 ――何のために、まさか小犬の?

 ――人々はこの事件を起こした男に大義を求めた。


《新幹線を止めた理由について、男は「ひと夏の思い出になるかと思った」と意味不明な供述をしており―――》


 ――そうしてその直後、人々はこの犯罪者が、何の大義も持っていなかったことを知ったのだ。

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