取調編

留置所で。


女の子は指を差す。


次々に指を差す。


これもこれもこれもこれも。


全部壊していいのね?


と。


指を差したものを次々に破壊していく。


投げ飛ばし、叩きつけ、笑顔で笑いながら壊していく。


留置場の取調室のノートパソコン。


無線機。


電話。


プリンター。


全てそこにあるものは、壊していいものなんだと。


そういう認識で彼女は笑いながらものを壊す。


俺が、留置場へ運ばれたとき。


取り調べ室に入った時。


最初に感じた妄想がそれだった。


ここにあるもの全部破壊していいんだな?


って。


そう思った。


しかし、なぜかそれは実行に移さなかったが。


俺の脳内はそれくらい間違った思考が流れていた。


そして、取り調べ室で。


取り調べが行われる。


どうしてガソリンスタンドのドアガラスを壊したのか?


この質問の答えは、あまり覚えていないが。


坂上忍のことは言わず、1000円で店員さんが満タンのボタンを押したが、サービスで満タンにしてくれなかったから、やった。


と。


それだけを言ったと思う。


だが、今やってしまったことに関しては俺はなんとも思っていなかった。


何だろう。


以前もやっぱり、ここに来たことがある。


そんな気がする。


というか。


ここみんなが通る道なのか?


そんな妄想も頭に浮かんで。


小学校時代の先輩も、なにやら悪さをして、留置場へ来て、取り調べを受けた際、笑いながら冗談でした。


と弁明しすぐ即釈放されたのを思い出した。


俺は、この局面。


この状況をどうするのか?


別に即釈放されたい訳じゃない。


悪いことをしたのだから、罰を受けるつもりはある。


でも、この状況をどうにか、なにか面白い方向へ進めていけないだろうか?


なぜかそんな妄想が頭に浮かんだ。


そこで、手錠をみる。


手錠には、なにやら、アルファベットと番号が書いてある。


そのアルファベットと番号は残念ながら今は全く覚えていないが。


そこで、坂上忍の声が聞こえてくる。


妄想で。


そのアルファベットと番号をよく覚えておけよ。


って。


この文字と番号は、いわゆる芸能界へ入るための、パスワードのような番号。


どこから仕入れることが出来るかは、この瞬間でしかなく。


このパスワードをのちに、芸能界へ入るための試験用紙に書き込めば。


晴れて俺も芸能人の仲間入りが出来るということだ。


まぁ、そんな訳はないのだが。


そこで必死にそれを覚えようと必死になっている自分がいた。


取り調べは続く。


親の携帯番号を聞かれ。


父親の番号は正しく答えるが。


母親の番号は、あえてわざと最後の一ケタだけ、違う数字を言ってみる。


のちのちこの母親の番号の間違いはあきらかにならないが、組織と思わしき連中に、そうたやすく自分の親の情報を与えてはならないという、俺のささやかな反撃行為だった。


その後証明写真の記念撮影を行い。


そこでも、カメラマンが埼玉の元会社の先輩や同僚に似ているものがいた。


俺にとっては、まさに、その人達は元職場の埼玉のあの会社の人間達で。


久しぶり井上くん!


と。


同僚の名前をいいそうになるが。


それは言わないで。


手のジェスチャーだけで、井上くんというのを表現する。


警察官達にはわからないかもしれないが、ライブ盗撮している芸能人の坂上忍らはわかる。


そう妄想してしまう。


あ、コイツ今、手で井上ってやったな。


きっと気づいているぞ!


そんなことを坂上忍は指摘する。


それを俺は妄想して。


この先どうなるんだよと。


坂上忍や明石屋さんまが注目して見ているとさらに妄想。


俺は、取り調べの警察官の手をいやらしく手錠をかけられた手で触り。


どんなプレイがお好みですか?


なんて手錠をかけられたまま、俺が言ってる妄想をしてしまう。


本当に言った訳ではないが。


そこで、坂上忍が。


コイツ留置場の取り調べを、ホモビデオのAVにするつもりだ!


そんなことを言っている妄想をしてしまう。


しかし、俺は、さすがに気持ち悪いと思い、それはしない。


でも、その先の妄想で。


警察官達は、実はゲイでホモでバイで。


なんで、わたしたちとホモりあってくれなかったの?


と。


そう言っている未来が見えた。


そこで、いったん妄想を止める。


そして、ある程度取り調べの話しが終わり……


俺は、きっとこの先坂上忍が出て来て、全てのネタばらしが始まるんだなって。


そう妄想していた。


別室に連れて行かれようとしていた。


そこに、きっと坂上忍が出てくるんだろうなって。


その先の妄想をした。


その先の妄想では。


別室に坂上忍がいて。


いきなり、俺にこう言った。


ジュリエットからの手紙をお前は見たな?


全く訳のわからないことを言ってくる。


しかし、俺は、その言葉に記憶があった。


数日前、訳もなく借りた海外映画のDVDである。


内容は全くしらないし、わからない。


早回しで、一瞬眺めただけで、何も頭に入っていない。


しかし、どうやら坂上忍はその映画が好きなようで。


俺に感想を聞いてくる。


ちゃんと答えないと怒られる。


芸能界に入りたかったら、そのジュリエットからの手紙という映画を見て感想を答えるのは必然条件だった。


だが、まともに見ていない俺は、答えられない。


俺は、坂上忍さん、全く記憶にございません。


そんなもの見てはいません。


そう答える。


あるいわ、違う過去の未来妄想で。


自分からジュリエットからの手紙を俺は見たぞ!


と。


怒られるの覚悟で自分から言い出したパターンの妄想もあった。


しかし、今回は記憶にございませんと答えた妄想で話が進行していき。


記憶にないと答える俺に、坂上忍が、


その別室にいた一人の女の子を指差して、言ってくる。


じゃあ、この女は覚えているな?


その女は、この留置場の取り調べ室に入った瞬間妄想した女で。


全てを破壊しようとした女で。


過去に会ったことがあると思った見覚えある顔で。


そう。


アイスの人妻さんに会う前に、埼玉のとあるパチ屋で説明を受けたあの女性店員だった。


そのときの説明が、あまりにカタコトな喋り方で、いかにもおかしな感じで。


かなり違和感を感じていて、俺はそいつを覚えていた。


正直、イラッともした。


あまりにカタコトな話し方だったため、馬鹿にしているのか!?


と思ってしまって。


坂上忍はそこで言う。


この女も金をシュレッターにかけた。


そんな事を言ってくる。


俺はそれに驚きの表情を浮かべる。


なんでそんなことをしたって?


俺は、わかるけど。


お前はなぜそれをしたって。


そんなことを、相手の女に聞いてみる。


あたしは、金がいやになったのよ。


そんな事を言ってくる。


俺と同じだ。


俺と。


坂上忍は説明する。


お前らは、金をシュレッターにかけた。


金をシュレッターにかけた人間は、世の中から、金の概念が消える。


すなわち、お前らは、金の概念が今世の中にない。


だから、それを正しい人間の感覚に戻す必要がある。


そんなことを坂上忍は言ってくる。


どうやって戻すんですか?


俺は尋ねた。


坂上忍は答える。


それは、金の概念を失ったもの同士で、セックスすることだ。


避妊をせず、中出しセックスをして、妊娠させて、中絶すれば、お互いの脊髄の髄が変わり、元に戻る。


世の中の根幹原理の思考を壊したお前らは、もう一度強いショックを与え、そのお金の概念がないもの同士が、繋がりあうと、再び金の概念が元に戻る。


そんなことを坂上忍は言ってくる。


そして、坂上忍は言う。


さぁ、みんな見ているから、お前ら、そこのベッドでセックスしろ!


お互い童貞で、お互い処女なんだから。


調べは付いている。


すると、女が俺に指をさし、言ってくる。


こんなやつと中出しセックスなんてしたくないってば。


俺も続けて言う。


俺だってまっぴらごめんだ。


しかし、坂上忍は、部屋の鍵を閉め、お前らが中出しセックスするまで、この部屋からは出さんとだけ言って、去っていってしまう。


ほぼ監禁状態の二人。


部屋にはシングルベッド一つ。


取り残されたワトソンと、パチ屋の女。


女が一言、しゃあねーなっ!


なんてことを言う。


その後お互い何も言わず、目だけでお互い見つめ合い、何かそういう雰囲気になってしまい。


キスが始まる。


行為が始まる。


二人はその日ディープに愛し合ってしまう。


子供は欲しいと思うから出来る。


愛し合ってしまった二人は、見ず知らずの関係だったが、子供を望んでしまう。


しかし、これは、留置場の妄想にすぎなく。


その後の妄想は、その女の子が妊娠し、中絶すると言いだし、俺がぶちギレ、生命の涙を流した瞬間に確かに脊髄が元に戻り、金の概念が元に戻ったのを感じた。


だが、そんな事実も、行動も、結果も、結局なくて。


俺は、留置場で投獄され、牢屋へといれられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る