逮捕編

チカ竿を弄っている俺はとても饒舌である。


自分の部屋で寝っ転がりながら。


地面にはマットレスや敷布団。


ベッドは解体してもうない。


あおむけになりながら、チカ竿を手にとり、伸ばし、左右にふったりして、竿がしなる様子を見て、なんとなく楽しむ。


そこで俺の饒舌な口調が、次々と笑い話を展開する。


組織が盗聴している。


組織が盗撮している。


この部屋はもう。


ありとあらゆる組織のものがいっぱいで。


自分はもう諦めた。


最初は盗聴、盗撮されたくない。


そんなことを思っていた。


今となっては、もう、対策するのすらめんどくさいし、もう対策しきれない。


なら、見たきゃみろ。


聞きたきゃ聞け!


でも。


聞かれるからには。


見られるからには。


俺も面白いことをしなければならない。


面白いことを言わなければならない。


今日も俺は、このチカ竿を弄り遊びながら。


面白いことを言う。


正直この時の俺は。


今の俺と比較にならないくらい、あの時の俺のトークは天才的に面白かったと思う。


自分言うのもなんだが。


でも、何を話したのかは、ほとんど覚えていない。


俺は、ひとしきり笑い話をしたあと、茶の間へ戻る。


兄貴と姪っ子が、朝ごはんを食べていて。


テレビは、特撮の戦隊モノがやっていて。


今思い出せば、この日は日曜日だったのかと。


そう思い出すことが出来る。


動物戦隊ジュウオウジャーがやっていて。


それを見ながら兄貴が言う。


「これは面白いぞ」


と一言。


俺は正直、ダイレンジャー、ジュウレンジャー、ジェットマン。


この三作品しか基本見ないし、好きじゃない。


でも、この時なぜかわかった。


このジュウオウジャーという作品がとても面白い作品であると。


根拠はない。


ただ。


世の中の声。


風の動き。


風の色。


それらなにかの感性が働き。


この作品は面白いのはおそらくそうなのだろうと感じる。


そして、朝ごはんを食べ終えた姪っ子が。


歯磨きを始める。


兄貴が歯磨きをさせようとするが。


まだ小さい姪っ子は、ぐずりだして、嫌がる。


とそこで、俺もハブラシを持ってきて。


真似ごとをさせるように、自分も磨いてみる。


あるいわ、姪っ子と歯磨き対決だー!


とばかりにそんなノリで、歯磨きを開始する。


しかし、結局姪っ子は、ぐずったままで。


無理やり兄貴が歯磨きをさせる。


歯磨きも終わり、いろいろ準備して、その後、姪っ子と兄貴が家を出て帰宅する。


それを見届けて。


俺は。


その後。


何かを感じる。


姪っ子と兄貴が帰った直後。


世の中の声、風、色。


それらの周波数を自分の感性で感じながら。


短パン。


Tシャツ。


帽子。


そして部屋に落ちてあるコンドームのカップの残骸容器。


小さなアイスのカップみたいな、サガミオリジナルのコンドームの容器のゴミ。


その容器をなぜかポケットのなかに入れる。


何故ゴミをポケットに入れるのか。


そこには意味はない。


そうしたい。


そうしたいとただ感じるだけで。


そして。


部屋の中で。


俺は、どんどん異常行動をする。


どんな異常行動をしたかはもうあまりにも脈絡がなくて、全く覚えていない。


とりあえず、覚えていることは。


俺の異常行動が今後どんな動きをするのか、みんな予想しながら、楽しんでいる様子を俺は妄想していた。


盗聴、盗撮している組織の連中らが。


からの~。


からの~。


と連呼する。


俺は、どんどん異常行動がエスカレートし。


そこで。


ここから、再び旅に出ることを決意する。


釧路へ行こう。


釧路の街へ。


あてもなく。


いつも乗っているダイハツの車には今日は乗らず。


今日はオートマの車に乗ることにした。


なぜ俺はこの車に乗ったのか。


最近の俺は、脳が働き過ぎた。


あまりにも頭を使いすぎたから、ギアチェンジのいらない、オートマを選んでいるのであると。


俺はその瞬間そう妄想する。


車に乗り、釧路までの道路を走る。


わりと長い道のり。


車で2時間くらい。


1時間くらい走ったころだろうか。


俺はそこでとても良くない妄想をしてしまう。


俺は今からどこへなにしにいくのか?


そんなのは誰もわからない。


俺自身もわからない。


そこに何か答えがあるのではないか?


組織が勝手になにか用意して期待しているのではないか?


自分はもしかして、何かの役割をもった人間ではないのだろうか?


そこで、自分はふと変な妄想をしてしまう。


退屈な世の中。


興奮的な刺激が世の中に足りていない気がする。


俺は、そこで突然自分がAVのディレクターであると妄想してしまう。


いまから俺は、AVの撮影をする。


勿論そんな約束ごとなど、なにもない。


もし、自分が出演者として、外の人やお店の人になにか、ふしだらな事をしたら、自分は容赦なく捕まるだろう。


でも。


もしかしたら、世の中に。


組織の人達が用意した、その撮影に協力してくれる素人女性がパチ屋にいるのではないだろうか?


などとそんな危ない妄想をしてしまう。


AVの今までの数々の名作。


なぜか、俺が見てきたAVを。


坂上忍や、組織の人間。


やくみつる、平成ノブシココブシ吉村や、アンジャッシュの渡部。


それらの人達が、俺の見るAVを大絶賛している。


コイツのセンスは凄いと!


自分の趣き、趣向を理解し、一貫した信念を感じると。


手放しに誉められている。


普通の人達は、自分がどういうAVが好きなのか、感覚的に瞬時にわからず、さまよってしまい、揺らいでしまうらしい。


そして、それらの芸能人たちは、俺が童貞であることをさらに評価し、コイツがAVの監督やディレクターになったら。


相当凄い不朽の名作AVが出来ると。


そんな勝手な評価を受けていると俺は妄想してしまって。


俺の暴走は止まらない。


今まで、出来たAV。


名作と呼ばれるAV。


これらは、入念な準備や、段取りがあったかというと、実はそうではない。


ある程度のいい加減さ、ある程度の適当さ。


このあんばいが、丁度いい作品が、不朽の名作と呼ばれ続けている。


適度な遊びごころというやつだ。


あまりにも、入念な準備や段取りをしてしまうと、それは、その生生しさや初々しさ、現実感が消え、説得力のない、趣きを失ったAVとなってしまう。


逆にあまりにも、適当にやりすぎると、今度は陳腐な嗜みのない作品になってしまう。


最高の作品とは、AVにおいては、奇跡の偶然の産物なのである。


おそらくね。


とにかく、今から俺は、AVの撮影をするのだろう。


そうなんだろう、俺。


組織の人間は、それを期待していると思っている。


ここで、俺の妄想で、以前、学生時代の友達のN崎というやつが、俺同様、勝手な妄想で、自分がAVのディレクターで、これから撮影に入ると勘違いしながら、ロープを助手席に積んで、車を走らせ、撮影場所へと向かっていったことがあった。


組織の人間はN崎が、打ち合わせなしに、防犯カメラを用いた、AVの撮影をしようと考えいることに、狂喜乱舞大盛り上がり。


パチ屋に入った、N崎は、ロープを持って、防犯カメラを探し、いいアングル、いい素人女性を探し、呼び寄せ、ロープを渡し、


『それではこれで、縛られてください』


と言って、しかし、そこで拒まれ、その計画はそこで終わってしまい、未遂で終わる。


N崎が出来なかったことを。


俺は出来る。


もしかしたら、今日。


俺は犯罪者になるかもしれない。


俺は警察に捕まるかもしれない。


安心しろ、ワトソン。


今だから言えるが。


君は性犯罪ではなく、別件で今から警察に捕まる。


俺の妄想は完全にやばい状態で。


なぜか、街中のツルハドラッグの出入り口のクレーンゲームをやったり。


うわぎをはおって被りながら、お店の中に入ったり。


その後、あのガソリンスタンドに行く前に。


ダイソー100円ショップで買い物をする。


俺は、ここで、何かを感じる。


繰り返し続ける今。


何度も何度も。


俺が買おうとしているものは。


過去を思い出す買い物だ。


あるいわ、自分が欲している、あるいわ、全く欲していない買い物。


手に取るものに、適度なストレスを感じるか?


それを自分に問いながら。


手に取った時、適度なストレスを感じる場合は、それは今求めているモノである。


あるいわ、今後必要となっていくものなのだろう。


そんな気がする。


俺は、ここで、なぜか、お祝いやサイン用の色紙、白いスリッパ、タマゴボーロを買うことにした。


お祝い用の色紙は、おそらく友達の結婚祝いを渡す妄想して買ったと思う。


その友達の結婚式に行ったとき、俺の心は心ここにあらずだった。


心の底から、友達の結婚式を祝っていたのだろうか?


そういう疑問を抱いたとき、自分は友達に対して申し訳ない気持ちになった。


だから、後からでもいいから、ちゃんとお祝いしようって。


そう思って買ったのである。


白いスリッパと、タマゴボーロに関してはなぜ購入したのか、本当に分からない。


何かに導かれるように、自分は買ったんだと思う。


そして、購入を済まし、気づいたら財布には1000円札だけと、燃料も残りあとわずか。


俺は、給油しようと、近くのガソリンスタンドに向かった。


ガソリンスタンドに到着し車を止めて、給油を行う。


俺が、1000円札を入れようとして、モニター選択画面を押そうとすると。


店員が店の中から現われ、俺のところまで来て、俺の1000円札を受け取り、満タンのボタンを押した。


そこで、俺は疑問に思った。


普通、1000円で満タンにはならない。


でも、きっとこの店員さんはサービスしてくれるだろう。


そう勝手な推測をたてた。


そして、給油が終わり、ガソリンスタンドを出ようとした。


少し、走ったところであることに気づく。


ガソリンが満タンになっていない。


当たり前のことだが、おそらく満タンのボタンを押しても、1000円分の給油ができるだけなんだろうと思う。


しかし、俺は、そこでまた空から声が降ってくる感覚になって。


学生時代の友達や、兄貴の声が脳内で聞こえて。


その声は、さっきの給油に関することで。


給油されている最中を思い出し、友達が


「わっちゃん、それ人にやらせたら……駄目……騙されちゃう」


「ゆうき、それはまずいぞ……」


友達と兄貴のそんな声が聞こえてきて。


俺は、まずいことをやったんだなって。


人に管理を委ねて、なにか騙されているんだなって。


今もこうして、満タンにサービスしてくれたはずなのに、実際はメーター半分の量しか給油されていない。


これは。


これは怒らないとだめだぞ。


おまえの怒る演技が見たい。


誰だろう。


この声は。


この声は坂上忍だ。


さらに、友達が、さぁこれから、コイツがキレる瞬間をとくとご覧あれっ!


そんな声が聞こえてくる。


その瞬間。


俺はこれから逮捕される。


間違いなく警察に捕まる。


なにかしてはいけない事をする覚悟と決意。


常人では飛び越えれない何かの境界線を越える瞬間。


その瞬間も脊髄が変わるような。


そんな感覚があった。


そして、再び俺はそのガソリンスタンドに戻り。


お店の中へ。


そして、強化ガラスの窓口の向こうに、店員の姿が見える。


コイツが憎い。


そう思っている訳でもなかった。


コイツが許せない。


そう思っている訳でもなかった。


坂上忍の声。


俺がぶちギレ、このガソリンスタンドのガラスを破壊する場面。


その役者としてのテストを今からやるのだから。


演技として、俺は、このガソリンスタンドを破壊するのである。


心底怒っている訳ではない。


しかし、その演技を見せるため、ゆくゆくは、芸能界へと向かうため。


俺は、その窓口の強化ガラスを開けて。


「ふざけんじゃねーぞ、このやろうー!」


と訳のわからない道理で、けたたましい怒号をあげて。


なぜか車のキーを投げつけて。


俺は、その強化ガラスにグーで思いっきりパンチした。


容赦なく、全身全霊を込めて、ガラスを殴った。


その様子を、カメラで、明石屋さんまや、坂上忍、学生時代の友達が見ている思い、その様子に、友達は、


「やっば、ワトソンめっちゃキレてるじゃん……こっわ! でもこれ演技だよねw」


そんな驚きと、苦笑いをしながら、俺のその惨劇を見ていると妄想してしまう。


しかし、おれの正拳突きでは、その窓口の強化ガラスは破壊出来ない。


俺は、ちょうどなぜか、長靴をはいていたので。


その長靴は計算して、このときのために、履いてきた訳ではないが。


俺は、その長靴で、店内のドアガラスのところまで、行き、今度はドアガラスを蹴り破る。


ドアガラスは、強化ガラスではなかったので。


ガラスは簡単に砕けて、奥のへと粉々に飛び散り、散乱。


俺は、そこで、車のキーを店内に置いたまま、


車へと戻った。


車の中のさっきダイソーで買った白いスリッパ。


その白いスリッパをなぜか、履きながら、俺は、またガソリンスタンドの店内へと戻った。


俺は、その白いスリッパを履きながら。


部屋の中へと入ろうとする。


でも、ドアガラスを開けて、入ればいいものの。


これもなぜか、壊れたドアガラスの破片口となる穴をくぐっていって。


そこでも妄想で、明石屋さんまが。


白いスリッパで、破片の穴をくぐる俺の行動に爆笑する。


俺は、部屋の中へと入り、お店の人に。


「ごめんなさい、大丈夫でしたか?」


と、給油してくれた、おそらく通報の電話をいれたであろう、男性の人に、謝る。


俺は、未だにこの店員さんの顔は全く覚えていないが。


今となっては本当に申し訳ないことしてしまったなぁと。


そう思っている。


そして、再び車の中へと戻り、ふと考える。


俺は100%捕まる。


警察に捕まる。


逃げたい訳ではないが。


なぜか、そこでもやくみつるの妄想をしてしまって。


漫画家さんは、その一瞬一瞬に、どういう気持ちでキャラクターが行動をしているのか?


その表情や気持ちを描くためには、自分で実際に行動し、それを描くのが一番いいと。


実際、ガソリンスタンドのドアガラスを壊す描写があるのかはわからないが、怒りや憎悪の感情表現を描くつもりで、


警察官が来ても、ごめんちょっと待って漫画描くからっ!


ガラスもちゃんと弁償するから。


といいながら、絵を描こうとする。


その後この行動が犯罪にはならず、創作活動の一部として、終わる一幕を妄想してしまう。


俺も、それをここでやろうと。


車に積んであった、鉛筆を用意する。


鉛筆を用意して、さっきダイソーで買ったあと手に入れた領収書を手に持って。


その領収書の裏面に、鉛筆で、壊れてしまったガソリンスタンドの絵を描こうと考えたのか。


その二つを持って、外へ出る。


そこで、ちょうど警察官が俺の近くに現われて。


すぐに通報されたんだと気づく。


その警察官が。


「何をしている」


そう言われ、俺は持っていた鉛筆を手放し、鉛筆は地面に転がっていく。


領収書を運転席にしまい、車のドアをあけたまま。


その警察官と少し睨みあいや口論になる。


その時の会話は全く覚えていないが。


おそらく俺は捕まる。


捕まるなら、現行犯で捕まりやすい形で捕まってやろうと。


警察官がなにやら、俺に火に油をそそぐような発言をしたあと。


俺は、手のこうで、その警察官の頭をなでるように、北斗剛掌破をするように。


警察官のおでこを小突いた。


その瞬間。


近くにいた警察官達が。


「確保ーーーー!」


と叫びながら、その場ではがいじめされ、うつ伏せに、なりながら、両手を後ろにされ、手錠をかけられる。


数日前自分のツイッターで。


「自分は罪深き人間だだから、それを償うために、逮捕されたい……」


その思い。


その念願がかなった瞬間だった。


俺は、はがいじめされた勢いで、白いスリッパが脱げてしまい、裸足になる。


俺は、そこで裸足でオリンピックを走り優勝した、アベべというマラソンランナーを思い出す。


俺は、そこで、


「アベべに対して、そんな乱暴な事しないでください」


って。


そうふざけたことを言ってしまう。


そして、自分の車を置いてまま。


昼下がりのガソリンスタンドで。


俺はパトカーに乗せられ。


捕まったのである。


それでも、俺はなぜか。


なぜか、懐かしい、ああまたかという思いで。


俺を乗せたパトカーは、留置場へと進んでいったのである。

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