101回目の逮捕と出所

ワトソン

前夜編

何度繰り返していることだろうか?


自分の行動。


過ち。


失敗。


確かなデジャブの記憶を自分は感じていて。


1度目の人生のはずなのに、なぜか、自分は何度も、何度もその瞬間を体感した記憶がある。


俺はまた捕まった。


あの釧路のガソリンスタンドで。


これは、いったい何度目だろうか?


人は、過ちを何度も繰り返す。


失敗も何度も繰り返す。


あの覚せい剤で何度も捕まっている田代まさしも。


はじめは、何故そんなことしたのか!?


という驚きと失望。


しかし、そんな彼への評価は、だんだんと、失望から、諦め。


何度も同じ過ちを繰り返すことで、だんだんと周りは、ああまたかと。


次第にそれを面白がるものも出て来て、最後には期待感すらもってしまう人がいる。


そんなことですら、俺にとっては初めての事象ではない。


人間のその瞬間。


その瞬間は。


いつも用意されていた過去の自分の行動にすぎない。


今こうしてキーボードを打っている手も。


このブログの内容も、タイトルも。


もしかしたら、100回目の執筆かもしれないし、101回目かもしれない


それだけ、繰り返している感覚がある。


では、自分はまた自分として生まれてきたのだろうか。


おそらくそうなのだろう。


生命や。


感情。


細胞。


それら粒子の単位で。


過去の記憶を我々は覚えている。


そんな行動の一部が。


本当は最初で最後の人生のはずなのに。


今日も異常な行動の自分がそこにはいて。


俺は、その日兄貴が姪っ子を連れてちょうど帰ってきた日だった。


俺の中では、今の心の状態で、姪っ子に会う訳にはいかない理由があった。


心が壊れていた。


感情が壊れていた。


大人にはわからないが、きっと子供には見透かされてしまう。。


壊れた人間の心。


悲しい人間の心。


厳しい人間の心。


優しい人間の心。


俺の中でも今まさに、さまざまな妄想が頭の中をかけめぐっている。


俺の心の中は、姪っ子に簡単に覗かれてしまう。


もし、今の状態でこの自分の心や感情を姪っ子に覗かれたら。


俺は、きっと、姪っ子を怖がらせてしまうだろう。


世の中が嫌い。


大人が嫌い。


世界が嫌い。


資本主義社会が嫌い。


お金が嫌い。


さまざまな反対少数派閥として、世の中の当たり前とまさに戦っている状態だった。


こんな、厳しい心の状態を姪っ子に見せる訳にはいかない。


俺は、自分の心の中を落ちつかせようと。


ちょうど、乗っていた車から降り、家の前の道路を歩いた。


家にはおそらくもう兄貴と姪っ子が帰ってきていて。


姪っ子に会う前に、心の平静を待って。


ただただ雑草が生い茂る道路淵を歩いた。


なぜか、泣いていた。


俺は、ただ歩いていただけで泣いていた。


涙がすっと、こぼれてきて。


妄想だが、その涙に、坂上忍は驚く。


やっぱりコイツはすげえな。


コイツ歩いていただけで、泣くなんて。


やっぱ役者に向いてるじゃん。


コイツを俺のもとにつれて来い。


そんな声も聞こえてきそうな気がした。


今になって思えば、もうこの時点で、坂上忍が出て来ている訳だから。


本当に危険な状態であったんだなと思う。


そして、姪っ子に会う前に。


優しい心の状態に戻った俺が、姪っ子に会っている想像をした。


姪っ子は、ゆっくりと俺のズボンのスソをつかみ、笑顔で微笑む。


あ、姪っ子は怖がらず、俺を受け入れてくれたんだって。


そういうふうに思う。


しかし、ここでも妄想で。


当時、恋愛感情を抱き好きだった、アイスの人妻さんが。


俺の家に来ている妄想が頭をよぎり。


そのアイスの人妻さんが、その姪っ子を見て、嫌な顔をする。


そのアイスの人妻さんは、自分の子しか愛せないのか。


はたまた、子供じたいが嫌いなのか。


当時、ここでは説明しないが、トリカブトのオ―ラを放つアイスの人妻さんは、平気で子供を中絶できるような人だと俺は妄想してしまって。


顔や表情は、自分からして、物凄く魅力的に見えるが、しかし。


それは、自分と真逆であるから、だからこそお互い惹かれあっていたのではないか。


そんな勘違いな妄想があった。


あの顔。


あの表情。


アイスの人妻さんみたいな、人を割り切ったような、強い均整のとれた美しい表情。


その強さは、生命をないがしろにしてもなお、男に抱かれたい。


男に愛されたい。


自分を愛して欲しい。


そんな気持ちが伝わってくる表情で。


俺の小さな姪っ子ですら。


アイスの人妻さんは、嫉妬の心を抱く。


姪っ子と遊ぼうとしても。


姪っ子と話そうとしても。


それを心よく思わない。


ちっ!


と一言舌打ち。


その嫉妬の心は、俺は少し嬉しく感じていたが。


アイスの人妻さんにとっては、苛立ち以外の何物でもない。


まぁ妄想なのだが。


俺は、そこで、舌打ちするアイスの人妻さんと、若干のケンカになる。


姪っ子に舌打ちするなと。


この子を大切思って欲しいと。


でも、アイスの人妻さんは、そうは思わない。


自分以外の異性に優しくするワトソンを許せないようで。


そこで、少しケンカみたいになってしまって。


姪っ子は、アイスの人妻さんの顔が怖くて泣いてしまう。


そんな泣いてる姪っ子をしり目に、俺とアイスの人妻は掴みあいのケンカになる。


しかし、掴み合いとは名ばかり。


ちょっとエチエチな感じで、パンチを繰り出しているように見える俺の手先が、いやらしく、アイスの人妻さんの胸を触っているような感じで。


俺は、少し笑いをこらえながら、そのアイスの人妻さんと掴み合いを続ける。


だが、これは妄想。


そんな羨ましい状況なんてものは、結局嘘っぱちで。


今から姪っ子に会う。


俺は、ついに家にたどり着いた。


兄貴がいた。


姪っ子もいた。


そのときの様子はよく覚えていないが。


おそらく姪っ子は俺を受け入れてくれていたと思う。


俺は勝手に脳内で、リフレッシュに道路淵を歩いた効果がでたんだと思う。


そして、兄貴が俺とキャッチボールをしようと言ってくる。


俺は、それに応じる。


キャッチボールが始まる。


兄貴のボールを受け取って、俺が兄貴に投げ返す。


そこで。


おれは、何かとても懐かしい感覚に苛まれる。


こうして兄貴とするキャッチボール。


中学時代以来かもしれない。


高専時代はほとんど家でキャッチボールなんて出来なかった。


もしかしたら、10年ぶりくらいになるのかもしれない。


10年前。


頻繁にやっていた、他愛ないキャッチボール。


暴投とかで、打球を打ったりとかで、行方不明になる野球ボール。


そんなボールを緑いろの雑草の生い茂る草むらの中から、一生懸命探した少年時代。


俺は、それを思い出して。


ついつい暴投してしまう。


そして、ボールが草むらの中へと消える。


そんなボールを二人で探すのは、何年振りだろうか。


これも、おそらく10年ぶりくらいだろう。


キャッチボール自体がそうなのだから。


自分は今まで遠いところへいた。


距離で言えば埼玉。


大阪、東京、青森。


さまざま仕事でも行った。


そこで、心が壊れた。


気づいたら、その北海道から遠い距離へと向かったのと等しいくらい。


俺の心は、少年時代のものから遠くかけ離れていた。


優しく健気にボールを追い続けたあの頃。


変わってしまった自分。


でも、確かに感じる今。


この時の思い。


あれ、やっぱ懐かしいぞ。


何だろう。


この匂い。


この感じ。


この感覚。


今まで何かにとりつかれたような自分が。


ようやく長い時をへて、この優しいこの地元の実家の草むらの中で。


過去の自分を取り戻したような感覚になる。


その瞬間。


自分が。


自分に。


おかえりって。


そう言う風に言っている気がして。


そんな優しさを感じて。


これまで、社会で感じていた厳しい残虐な世界とのギャップに。


逆に自分は涙をそこで流してしまう。


そんな涙を流しながら、草むらのどこかにあるボールを探す兄貴は。


何も心配することなく、何事もないような感じで、ボールを探す。


今となって思えば。


きっと少しだけ兄貴は気をつかっていたのだろうか。


兄貴からしてみたら、俺は、病人。


まぁ確かに病人。


長いこと病人。


でも、俺からしたら、治ったんじゃないかって思えた。


ようやく、ここまで心と体が戻ってこれたんだって。


そう思った。


ひとしきり、涙を流したあと、ボールを探し、キャッチボールは終わった。


その後は家の中で姪っ子と遊び。


この日の夜。


俺は、なにか良からぬことを考えていた。


ドキドキワクワクブルブルといったような。


そんなトキメキを今。


家族みんなに与えてやろうかなって。


俺は、白い帽子を深めにかぶり、顔が見えずらいようにして。


黒いスーツを着る。


そして、手には100%ビタミンという飲み物と、ファブリーズを手に。


それらを両手で持ち。


長靴をはいて、裏口へと出た。


そして、表玄関へ。


家族にばれないように。


音をたてないように。


夜の9時前くらいの外の暗い時間にも関わらず。


そこで、家の呼び鈴鳴らす。


家族のお父さんとお母さんは、おそらくびっくりしただろう。


この時間帯に呼び鈴をなることなんて、ほとんどない。


多分、10年あっても一度もないだろう。


知らない人が、この時間帯に怪しい格好で現われたら。


絶対怖いだろう。


まぁそれが狙いであるのだが。


お父さんと、お母さんが、おそるおそる玄関までくる。


そこで。


二人が玄関まで来たこと確認して。


俺は、震え声で、怖そうに。


すいません、これでいいでしょうか?


と不気味な声をあげる。


お母さんは怖そうな恐れた表情と声で。


どちらさまでしょうか?


と聞いてきて。


少しの沈黙後。


俺です!


ゆうきです!


とカミングアウトする。


そこで、普段平和主義のお母さんが、命拾いしたかのような感じで。


ああ~びっくりしたぁと言う。


お父さんがさらに。


お前、覚えとけよ。


と。


いつか絶対お前を驚かせてやるからな!


そう言ってくる。


それに、俺は覚悟する。


どんな驚きをお父さんは与えてくるのか。


きっと、突発的な、わっ!


って驚かせてくる系統に違いないと俺は思っていた。


しかし。


この時俺は知る由もなかった。


お父さんに驚かされる前に。


さらに家族を驚かせることになることを。


自分の明日の行動が大きな事件を起こすことになるなんて・・・・・・

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