第43話ご紹介して下さい

ハロルド様もメイベルも街からいなくなり、落ち着いた日常が送れていた。




まだ婚約期間だが、クロード様に実家に帰らないでくれ。と言われてクロード様のお邸でお世話になっている。




「おかえりなさいませ、クロード様」


「ただいま、ラケル」




クロード様の出勤のお見送りと帰宅のお出迎えは私の日課になっていた。


仕事で疲れているだろうに、クロード様はいつも寄り道せず嬉しそうに帰ってきていた。




「ラケル、俺の父上から手紙が来たんだが、まだ仕事が片付かないらしく、会えないそうだ。ラケルにお詫びがしたい、と書いてあるんだが…。明日ドレスや服を買いに行かないか?母上があのオートクチュールにも手紙を出したらしいし…」


「あのオートクチュールに…」




お仕事なら仕方ないのに、何だか申し訳ない。


しかも、オートクチュールに手紙を出したということはそこで買えってことですよね。




「母上はいつもあの店で仕立てるから気にするな」


「でも…何だか申し訳なくて…」


「気にしなくていい。明日の休みに二人で行こう」


「はい」






そして、翌日にあのオートクチュールに行くと、アーヴィン様がいた。


どうやら、ハロルド様がメイベルに買ったドレスの支払いに来たようだった。




「クロード様、ラケル様。兄上がこちらのオートクチュールでも失礼したようですね。重ね重ね謝罪致します」




アーヴィン様はマダムからクロード様に、冷やかしだ、とか言っていた時のことを聞いてまた私達に謝罪した。




「メイベルのドレス代はお父様も負担すると言われましたが…」


「はい、ジェレマイア伯爵から、半分いただきました。お互いに折半することにしたんです」




まあ、半分でも負担できたなら良かった。


うちは、ハーヴィ家より資産が少ないから。




それでも、すぐにアーヴィン様が支払いに来られなかったのは、私達に慰謝料や迷惑料を先に準備したからだろう。


それで、オートクチュールの支払いが後回しになったと思った。




「ハーヴィ伯爵のお体はどうだ?まだ休まれているのか?」


「父上は後何日か休んだら領地で過ごします。兄上を見張りたいのでしょう」




笑顔のアーヴィン様とそんな話をしていると、このオートクチュールに、あのルシール嬢がやって来た。




ルシール様もよくこのオートクチュールを利用するらしい。


さすが公爵令嬢様だ。




「クロード様、ラケル様。こちらの方は…?」


「アーヴィン・ハーヴィと言います。可愛らしい方ですね。よろしくお願いします」


「まあ、可愛いだなんて…」




ルシール様…惚れっぽい性格ですか。


顔が赤くなってますよ。




「では、私はこれで失礼します」




アーヴィン様は何事もなかったようにオートクチュールから出ていった。




残されたルシール様は、アーヴィン様をぽーっと見ている。




「クロード様、ラケル様。あの方はお知り合いですか?」


「ええ、まあ…」


「ご紹介して下さい!私にはあの方がお似合いですぅ!」


「ええっ!?」




惚れっぽいと今し方思ったばかりですよ!




「ラケル…ルシール嬢は一途というか、真っ直ぐなんだ…。押しが強いんだ…」




クロード様の時も押しが強かったと聞きましたね!




「どうしましょうか?」


「何か問題でもありますか?まさか、ラケル様の愛人ですか?」


「違います!」




何を考えているんだ!


隣のクロード様は眉間にシワが寄ってしまった。




「ルシール嬢、ラケルに愛人はいません。不埒なことを言わないでもらいたい」


「私にはクロード様だけです!」




愛人なんているわけないです!


思わず、クロード様だけです!と言ってしまった。




「失礼しました。…でもご紹介して欲しいんですの…」




クロード様に言われてルシール様は少し小さくなったが、ひたすら紹介して欲しいと言ってくる。




「紹介だけならどうだ?アーヴィンに婚約者はいるのか?」


「いませんでしたが…そうですね、アーヴィン様にお伝えしましょうか?」


「そうするか」


「よろしくお願いしますわ!」




何だかルシール様に押され気味で紹介することになり、翌日にはハーヴィ伯爵の見舞いも兼ねて、ハーヴィ伯爵家へと行くことになった。






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