第42話凄かった
凄かった…。
あっという間にあの甘えた妹のメイベルの行き先が決まったのだ。
部屋で荷造り中の焦るジェレマイア伯爵に泣いている妹メイベルをよそに、このラケルの伯母上は笑顔でお茶を飲んでいる。
俺とラケルの三人で…。
ラケルも伯母上との会話を楽しんでいる。
ラケルがどこか物怖じしないのは、この伯母上の影響かもしれない。
「クロード様」
「はい、伯母上」
「メイベルのことですが、申し訳ありません。私からも謝罪致します。このまま変わらないようなら、結婚式には出席させません」
「わかりました。全て伯母上にお任せします」
あの妹が来ないのは安心だ。
ラケルとの結婚式を壊されたくない!
ラケルには、結婚式は綺麗な思い出にしてやりたいんだ。
「この子の両親のロベルト達はどうしましょうか?両親が出席しないと、クロード様のご両親が何か言われますか?」
「両親は問題ありませんが…出席者は噂をするかもしれません」
俺の両親は放任主義だ。
やることさえやっていれば、何も言わないタイプだ。
今は領地で夫婦仲良く暮らしている。
「でしたら、私がロベルト達をしっかり見張りましょう。結婚式を不快には絶対にさせません」
「よろしくお願いします」
なんだろう…、この伯母上に言われると安心感がある。
まるで上官のようだ。
先ほどの現状を目の当たりにしたからだろうか。
今もテーブルの上に開いたままの懐中時計を見ている。
「クロード様、結婚式はきっと大丈夫ですよ。私、楽しみです」
「ああ、俺もだ」
ラケルの可愛いさはいつ見ても変わらない。
「さぁ、一時間が来たわね」
お茶の時間はあっという間に過ぎた。
伯母上は懐中時計をパチンッ!と閉じ、立ち上がった。
「ラケル、クロード様。本当ならもっとゆっくりお茶をしたかったのですが、そろそろ出発します。結婚式まで会えませんが、結婚式を楽しみにしていますよ」
「伯母様、お気をつけて下さい」
「伯母上、お会いできて光栄でした。結婚式でお会いしましょう」
伯母上は、スカートを持ち、優雅に頭を下げた。
そして、妹のメイベル達の所に行った。
メイベル達は玄関で荷物を持ち待っていた。
ラケルの両親はげっそりしている。
妹のメイベルは、クスン、クスンと泣いている。
やはり、このタイプは俺はダメだ。
近づきたくない。
「さぁ、私の馬車に乗りなさい」
「…伯母様ぁ…私、行きたくありません…」
「あなたの意見は聞いていません。私は乗りなさいと言ったのです」
「お父様ぁ…」
「き、気をつけて行きなさい、メイベル」
「そんなぁ…」
「メイベル、馬車の中が嫌なら御者席でも構いませんよ。それとも、屋根にくくりつけましょうか?」
「そんなのいやですぅ…、うっ…うっ…」
屋根にくくりつけるって…この伯母上なら本当にしそうだ。
馬車の屋根に人が縛られていたら、捕まるんじゃないか?
馬車の屋根に妹メイベルがくくりつけられて、妹メイベルが叫びながら、馬車が走っている絵が浮かぶんだが…。
しかし、この妹もこの空気でよく嫌だと言えるな。
全く理解出来ん。
思わず、ひっそりとラケルの顔に近づけて話した。
「ラケル…くくりつけるって…」
「冗談ですよ。あれくらい言わないとメイベルには効きません」
「…そうか」
ラケルが、耳元で話してくれ、軽く吐息が触れると、こんな時だが動悸がした。
もう妹メイベルが馬車の屋根にくくりつけられようが伯母上が捕まろうがどうでもよくなってきた。
「では、皆様失礼致します」
嫌がる妹メイベルと伯母上は馬車に乗り込んだ。
「お父様ぁ…お母様ぁ…」
妹メイベルは馬車から身を乗り出し、ハンカチを振りだした。
まるで、劇の一幕を見ているようだった。
それくらい陳腐に見えた。
「窓から、身を乗り出さないのです!背筋を伸ばして座りなさい!」
聞こえたその言葉を最後に馬車は走り出した。
ラケルの母親は顔を覆い泣いている。
父親は呆然としている。
俺は、疲れた。
「ラケル…邸に帰ろう」
「はい」
ラケルの両親のことは放って、俺はラケルの肩を抱き寄せて二人で邸に帰った。
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