第15話次も買う
翌日、朝から私は今夜の晩餐に着るドレスに合う宝石を取りに邸の部屋に行っていた。
「お姉様、昨日のドレスはいつできますか?」
「あれはダメですよ」
メイベルはまたお父様に泣きついた。
しかし、クロード様からの贈り物だと伝えると少し違った。
「メイベル、諦めなさい。アラステア様のドレスを許可なくラケルから借りては少し不味い」
「どうしてですかぁ」
さすがのお父様もクロード様には気を遣っているらしい。
そして、もっと早くそういうことは言って欲しい。
「ラケル、クロード様を食事に呼んではどうだ?あの平屋では失礼ではないか?」
「…そうですね。クロード様にお伝えします」
平屋のどこが悪いのか。
別にクロード様は婚約者でもないのだから、失礼ではない。
「クロード様がいらっしゃるのですか?私、めいっぱいおしゃれします!」
「あなたはハロルド様がいるでしょう」
「お姉様ばかり狡いです!クロード様の方が素敵です!」
また、欲しがるつもりか。
でも、クロード様は私の婚約者ではありませんからね。
盗るのは無理ですよ。
「今夜はクロード様と晩餐に行きます。少し遅くなりますが」
「アラステア様に失礼のないようにしなさい」
「では私も行きますわ」
「あなたは呼ばれていません」
「ひどいです。お姉様」
「ひどくありません」
一体何を考えているのやら。
クロード様の上司の晩餐にメイベルなんて連れて行けません。
大体彼女のフリをして行くのですから、メイベルがクロード様にくっついたらおかしいですよ。
「お父様、メイベルはハロルド様と婚約しましたよね。ハーヴィ伯爵は何と?メイベルがしっかりしないとハーヴィ伯爵は認めないかもしれませんよ」
「手紙を出したから近いうちに、我が家に来ると返事がきた。他に何も書いてなかったから大丈夫だろう。すでに、ハロルド様がメイベルと書面で婚約を交わしているし…」
本当に大丈夫かしら。
ハロルド様が独断で書面を作った気がする。
メイベルに伯爵夫人になるのだから、しっかり女主人としての勉強をしなさいと言うも聞かないし、あのハロルド様を支えないといけないから、領地運営の勉強も必要だ。
この調子だと、ハーヴィ伯爵はお怒りになる気がするわ。
「お父様、メイベルの教育を今からでもしっかりするべきです」
「そうだな。少し勉強をするか?」
「お姉様は晩餐に行くのに?」
「頑張りなさい。メイベル。ハロルド様の為ですよ」
勉強が苦手なメイベルはふて腐れながら渋々お父様に連れて行かれた。
お父様は、クロード様が私の元に通って来ているからきっと期待しているのだろうけど、あんな素敵な方はメイベルじゃなくても無理ですよ。
彼女のフリが終われば、伯母様のところにでもしばらく行こうかしら。
婚約破棄した後、手紙を出したらいつでも遊びにおいでと返事がきていたし、伯母様は厳しいけどしっかり者でメイベルといるより楽しい。
クロード様が来なくなればきっとお父様は私を責めるだろうし、メイベルとハロルド様は疲れる。
そして、クロード様は約束通り迎えに来た。
クロード様が来ると、両親は笑顔だった。
お互い挨拶をすると、メイベルも微笑むようにクロード様を見つめた。
しかし、クロード様にメイベルの笑顔は効かない。
「クロード様、ぜひ我が家の晩餐にもお越し下さい」
「よろしいのですか?」
「勿論です」
「では、今度参ります。帰りも送りますのでご心配なく」
挨拶が終わればクロード様の馬車に乗せられ、並んで座ると、私の膝の上の箱に気付き、聞いてきた。
「その箱は?」
「ネックレスとイヤリングです。ドレスには必要ですから」
クロード様は今初めてドレスには宝石等アクセサリーが必要だと気付いたように、ハッとした。
「すまない!宝石を買うのを忘れていた!」
「大丈夫ですよ」
「次は必ず買う!」
まだ買う気ですか。
「気が利かなくてすまない…」
クロード様は申し訳なさそうにするけど、ドレスを買ってもらっただけで充分だ。
「大丈夫ですよ。次からは結婚する相手にドレスや宝石を贈って下さい。偽物の彼女に贈り物は要りませんよ」
「…結婚相手ならいいのか?」
「そうですね。旦那様からの贈り物は嬉しいですよね。きっとクロード様のお相手は喜びますよ」
「…なら、次も買う」
結婚相手にですよ。
クロード様から贈り物をしたいという気迫を感じてしまっていた。
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