第10話もう婚約者ではない

「可愛くないと、ラケルに言ったのか?」




クロード様はいかにも不愉快だといわんばかりに、怪訝な顔だった。




まさか私の為に怒ったのか、と思ってしまった。




ハロルド様はクロード様を見るとすぐに目を離し、私を睨み付けながら怒りを露にした。




「もう男を連れ込んだのか!なんて奴だ!浮気しやがってっ!ずっと浮気していたんだな!」




ハロルド様は急に現れたクロード様に驚いたのか、私を浮気者と決めつけ乱暴に腕を引っ張られた。


もう婚約者ではないのだから、私が浮気者扱いをされる謂れはないのに、ハロルド様にとったら間男が来たように怒り出した。




「キャア!?」




ハロルド様はひ弱に見えるけど、やはり男だった。


腕の力は私より強く、引っ張られた腕は痛かった。




「痛い…っ!」




そう思った瞬間、腕の力が緩んだ。




「ラケルに触るな!」




クロード様がハロルド様の腕を掴み、ハロルド様はいつの間にか後ろ手でクロード様に捕まっていた。


私が瞼を閉じたほんの少しの時間で、私とハロルド様の間に割り込んで来ていたのだ。


捕らえる姿は鮮やかで、さすが騎士様だ、と感心する。


公爵家の方なのに見かけだけの騎士様ではなかったのだ。


そして、掴まれたハロルド様はクロード様の腕を離すことも抜け出すことも出来ず、苦悶の顔だった。




「さっさと立ち去れ!」




クロード様は凄味のあるトーンでハロルド様を突き飛ばした。




ハロルド様は覚えてろ!と負け犬の遠吠えのように叫んで、逃げ帰って行った。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る