第11話お茶をどうぞ

「ラケル、大丈夫か?」


「は、はい、ありがとうございます…」




ハロルド様に掴まれた腕が痛く手首を擦るように握っていると、クロード様は私の手を掴み、部屋に入って来た。




「あの男は何なんだ?」


「元婚約者ですね」




そう言いながら、私はクロード様に掴まれている手をじっと見ていた。


躊躇なく私の腕を掴んでいる手は、先ほどのハロルド様の乱暴な力と違う力強さがあった。


しかし、いつまで握っているのか…こんな私でも意外と照れるのですよ。




「婚約者がいたのか?まさか、俺のせいで揉めたのか?」




クロード様は、どうしようというような困った顔になってしまった。


全くクロード様のせいではない。




「元ですよ!元!婚約破棄をされましたから」


「…君が破棄をされたのか?」


「そうですよ」




驚くことですかね。


確かに良くあることではありませんが、そういうこともありますよ。




「…あの…座って話しませんか?」




そう言うと、私の腕を握っていることに初めて気付いたようになり、クロード様は慌ててしまった。




「すまないっ!つい!」




顔が耳まで赤くなりパッと手を離すクロード様は意外と可愛いかった。




「大丈夫ですよ。さぁ、座りましょう」




火照った顔を大きな筋ばった手で抑えながらクロード様は座り、ハロルド様の話を続けて聞いてきた。




「あの男はラケルに未練があるのか?」


「あっ、お茶をどうぞ」


「そうじゃない!…お茶は頂くが…」




花模様の陶器のティーポットから、お茶を淹れながら、どこから説明したものか悩んだ。


婚約破棄のことから言おうか、そうするとやはりメイベルのことも話さないといけない。


しかもハロルド様に未練があると思われていた。


浮気者呼ばわりをされたからかしら。


あれにはさすがにビックリですけど。




「何と言いましょうか…さっきの方はハロルド・ハーヴィという方なのですが…一言で言うと私から妹に乗り換えたのです」


「…妹に?」


「はい、妹が良いそうですよ」


「……」




クロード様はあきれたのか、言葉に詰まってしまった。




「あの…お茶をどうぞ。あっ、クッキーもありますよ」


「…頂く」




そして、私は婚約破棄の話をクロード様にゆっくりと話した。


クロード様はお茶をおかわりしながらもちゃんと聞いてくれていた。








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