第3話彼女のフリをして欲しい

昨日はあの後、アイリスさんに店番のお礼だと花をタダで頂いた。


花を部屋に飾ると中々いい感じだった。




快適だわ!




この平屋なら妹も来ない。


何も取られることもなく、我が儘に振り回されないで済む。




邸にはまたハロルド様が来ているだろうが、会わなくてすむし、凄く精神的に楽だった。




そして、夕方になり夕食は邸に行くか、この平屋に簡単なものを持って来てもらうか考えていると、血相を変えたお父様がやって来た。




「ラ、ラケル!お客様だ。身嗜みはきちんとしているか!?」


「この普段着ではいけませんか?」


「バカ者!何故ドレスを着てないのだ!?」




バカ者とは何ですか。


むしろ何故ドレス!?


夕食はまだですよね?


どうしようか、考え始めたところです。




そう思うと、お父様の後ろから男の方の声が聞こえた。




「伯爵、無礼は俺の方です。約束も取り付けず急に来たのですから」




お父様の後ろから現れたのは昨日の男前の騎士様だった。




騎士様はお父様の後ろからジロリと睨んでいた。


どうやら、お父様は後ろの視線に気付いているのか、冷や汗がタラリと出ていた。




「急な訪問ご無礼をお許し下さい」




騎士様は胸に手を当て一礼をした。


そして、自己紹介をする前にお父様の方に振り向いた。




「失礼ですが、ラケル嬢と少し二人でお話がしたいのですが…」




お父様は騎士様にそう言われると、どうぞと素直に下がった。


その様子からこの騎士様はお父様より身分が上だと思った。




「あの…こちらにどうぞ。狭いところですが」




本当に狭くてすみません!




「お茶を邸から今お持ちしますので…」


「いや、お茶はいい」




お茶は断られ、いいのかしらと思いながら、椅子に座り向かい合うと、騎士様は自己紹介から始めた。




「俺は、クロード・アラステアと言います。昨日花屋でお会いしたことを覚えていますか?昨日は本当にありがとうございました」


「いいえ、予約をされた騎士様ですよね」




しかも、アラステアと言えば、聞き覚えがある。




「アラステア公爵様ですか?」


「アラステア公爵は父です」




道理でお父様が恐縮していたはずだ。


急に、公爵家の方が私を訪ねて来たのだから。しかも、約束なしで。




「…ご用件は?」




クロード様は言いにくそうに、拳を握っていた。


一体私に何の用があるのか想像も出来ない。


昨日の花屋では粗相はなかったはずだ。


他にお客様もいなかったから入り口まで、ありがとうございました。と挨拶をしたし、不満や文句を言いに来たとは思えない雰囲気だ。




「実は…頼みがあるのです」


「頼みですか?」




思わず、生唾を飲み込むような沈黙が流れた。




「…実は…」


「はい…」




ゴクリと本当に生唾を飲み込み、クロード様を凝視した。




「…俺の彼女の…フリをして欲しいのだ」


「…は?」




耳を疑うような言葉だった。








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