第3話
「琴葉ちゃん、ちょっと隣座ってもいいかな?」
「……どうぞ」
いきなり話しかけられて少し驚いた表情を見せた琴葉ちゃんだったが、すぐに返事が返ってきてひとまず安心した。
…まぁ無視されても、事が事だけに話をしない訳にはいかないのだが。
とりあえず、様子を見つつ話を進めていくか…
「…航平のやつ、家ではどんな感じだった?」
「兄さんですか…?」
「そう。最近こんなふうに過ごしてたとかそういのでいいからさ」
「…数年前に父と母が病気で亡くなってからは私の為に父と母の分まで頑張るんだって言って…ここ最近は毎日夜遅くまで仕事してました」
「そっか、前一緒にご飯食べに行った時も同じこと言ってたよ。『妹の為に俺が頑張るんだ』って」
「そうですか……」
ふと、隣にいる琴葉ちゃんを見てみると、琴葉ちゃんの目からは涙が溢れていた。
周りの大人達は誰も自分と関わりたくないと思っている、自分1人で兄の死を受け入れなければいけない、そう思ってずっと泣くのを我慢していたのだろうか?
そう考えると胸が締め付けられるような気がした。
とりあえず一度泣きたいだけ泣かせてあげる為にも一旦待合室の外に出るべきだろう…
「…琴葉ちゃん、ちょっとロビーまで行こうか」
「………」
泣きながらも無言で頷く琴葉ちゃんにハンカチを貸して、2人でロビーに向かった。
その後も泣き続ける彼女に、慰め方なんて知らない俺は、ただ隣に座って頭を撫でてあげることしか出来なかった。
✳︎
ひとしきり泣いて琴葉ちゃんも少し落ち着いたみたいだし、そろそろ本題を話さなければならない。
「それで琴葉ちゃん、昨日貰った航平からの遺言のことなんだけど…」
「……はい」
「琴葉ちゃんはこれからどうしたい?」
「…親戚の人は私のこと引き取るつもりは無いみたいですし、その…京也さんにご迷惑をかける訳にもいかないので…」
やりたいこととか、将来なりたい物とか、まだまだ沢山あるはずなのに『迷惑をかける』ときた。
この年齢の女の子がこの状況でそんなことを気にする必要なんてない、そう思った。
「迷惑なんてことは絶対ない。俺が琴葉ちゃんの面倒見てやる」
航平からの、親友からの最後の頼みだから最初からそのつもりだったが、よりその気持ちが強くなった。
「えっ…いや、でもそれじゃご迷惑になるし…」
琴葉ちゃんはまだそんなことを言っている。
「あいつからの最後の頼みだから最初から引き受けるつもりだったし、昨日は突然だったから驚いたけど昨日の夜、うちの両親にも話はしてあるから何か困ったらうちの実家に頼ればいい」
「…本当に、いいんですか?」
「もちろん。ここまで言ってダメとか言うのは流石に無いから」
「少し…考えさせてもらっても良いですか…?」
あまり時間は無いのだが、焦っても仕方ない。
そう思い、琴葉ちゃんの答えを待つことにした。
サラリーマン、女子高生の保護者になりまして… @wakatsuki-makoto
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