青春のリアル
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黒幕
第三話 浮上する容疑者
4月16日 (金) 11時13分
久しぶりに真琴の家のインターホンが鳴った。
もしかして…。
「はい!」
玄関を開けると案の定、陣が息を切らしながら立っていた。
「良かった、真琴がいて。佐田先輩が見てほしいものがあるから、
真琴たちを連れてきてだって。」
「なんか見つけたのかな?波美華は、私が呼んでくる。」
「いや、行ってきた。インターホンからは出たんだけど、
今日はどうしても外せない用事があるらしい。」
「そうなんだ…。でも陣、波美華の家知ってたっけ?」
「みんなで集まった日あるだろ?その時に波美華と帰るとき、家聞いた。」
「波美華と帰るとき?じゃあ、怪しい人たちとか見なかった?」
「いや、見てないぜ。どした?なんかあったか?」
「…波美華には知らないふりでよろしくね。
あの日、帰ろうと思ったら、波美華の近くに怪しい人たちがいて、
私が波美華って呼んだら、黒いワゴン車で走り去っていったんだよ。
波美華が泣きそうだったから、詳しくは聞かなかったんだけど…。」
「いや、そこ聞いとけよ。」
「そこはね、女の感っていうやつだよ。」
「なんか老けたか?真琴。」
ニヤニヤと馬鹿にされたので、
「もうほら、佐田先輩の所行くよ。」
と無理やり話の内容を変えた。
コンコン、
「はーい、」
佐田の声が真琴には久しい感じがした。
「あ、真琴。待ってたよ。
…あれ?波美華は?」
「今日はどうしても外せない用事があるんだって。」
「そうなんだ…、まぁ、入って、入って。」
波美華がいないせいか一瞬、佐田は少し寂しそうな顔を見せた。
「で?何ですか?見せたいものって。」
「最近、第三者の可能性を視野に入れながら、
ハッキングされた痕跡を毎日観察していたんだ。
そしたら、」
カチカチッと、マウスを移動させてある男の写真が載っているページを表示した。
「とうとう見つけたんだよ。多分この男が今の所、要注意人物。」
「凄ーい!どうやって見つけたんですか?」
「電力会社の元ととなるデータがあってね、
そのデータが切られるように遠隔で操作されていたんだ。
だからその元を突き止めたってわけ。」
「で?誰なんですか?この人。」
「原田 三郎(はらだ さぶろう)、39歳。
パソコン関係に就いていて、特にAIについて研究しているらしい。
以前は、多くに企業が彼を必要とし、求めたが、
彼は自分の研究に専念したいと言い、それ以来公の場には出ていないらしい。」
「住所は?」
「東京都港区12丁目23-1」
「ここからどのぐらいだ?」
「ここから、車で30分くらい。」
「遠いな。」
「どうしよう。」
「俺、親に聞いてみる。」
「だめだ。」
「どうして!目の前に容疑者がいるんだぜ、早く行かねぇと。」
「いや、この住所に行くことは賛成する。
だけど、親に話すのはダメだと言っているんだよ。」
「なんで!」
「前にも来ただろ。ここに。」
「…っ!」
「親に今の情報を渡してしまったら、いつ何が起こるか分からない。
親にも危険が及んでしまうかもしれない。これは僕たちがやらなければならないんだ。」
「分かった…。でも、どうやって行くんですか?」
「うーん、なんか思いつくか?真琴。」
「え?私?」
「真琴なんて今ここにしかいないだろ?」
「じゃあ、無難に自転車は?親には友達とサイクリングとでも言えばいいんじゃない?
今は停電中で学校も休みだから、体も動かしてないし。」
「真琴にしては良いアイデアだな!」
「ちょっと陣?私のこと馬鹿にしてる?」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。
では、これより各自転車を持ってきて、僕の家へ集合。」
「分かった。」
「うん。」
「ひとまず解散!」
12時4分。
佐田、陣、真琴の三人は自転車に乗って再び集合した。
「よっし、じゃあ、出発。」
三人は線路沿いをひたすら自転車で走った。
「ねー、コンビニ寄ろうよぉ。疲れたー。」
「確かにな、なんか買おうぜ。」
「いや、二人とも停電中だからコンビニすら開いてないよ。」
「じゃあ、自動販売機…、も、ダメか…。」
「もうひと踏ん張り頑張ろう。」
その頃、政治は傾き続けていた。
株価が下落し、経済も回らず、お店にも商品が届かない。
税金で解決しようとしても、解決しようがない。
なぜなら、この停電が復旧しない限り店が開かず、
国民は金だけもらっても、消費するところがないのだ。
国民はライフラインが途絶え、身動きが取れず、
買い物もできないから、料理も限りあるものでしか作れない。
また、生ものは長期保存ができず、腐れせてしまう家庭が多くあった。
それをゴミに出しても、ごみ収集車も、ごみの集積場が動くまで動けない状態。
それにより、徐々にごみによる悪臭が街に漂い、国民も困り果てていた…。
「着いたよ。ここがこの住所だ。」
「普通の家だけど…、人の気配はなさそうだぞ。」
陣の言う通り、雨戸は閉じられ、中の状態が見られない。
庭の手入れも随分行われておらず、草木が伸び放題だった。
「ここに来るまでは良かったけど、どうするの?」
「真っ向から行くか?」
「玄関から?」
「うーん、まず近隣住民の聞き込みから始めよう。」
「手分けする?」
「あぁ。」
「すみません。少しお聞きしたいのですが、
近隣の原口さんってどういう方かご存じですか?」
「あぁ、ごめんなさい。最近越してきたばかりで。」
「ありがとうございます。」
「すみません。お聞きしたいのですが、
近隣の原口さんってどういう方かご存じでしょうか?」
「うーん、知らないわねぇ。
あの人外に出たこともあんまりないんじゃないかしら?」
「そうですか…、ありがとうございました。」
「すみません。少し近隣の原口さんについてお聞きしたいのですが、
どういう方かご存じですか?」
「あー、パソコンについて上手い人じゃなかったっけ?」
今度は中年よりも少し年老いた男性の声だった。
「そうです!何か停電とかで気になったことないですか?」
「あー、でもなんか周りと停電になるのが遅かった気がするけど…。」
「ありがとうございます!」
三人は聞き込みを一通り終わり、再び男の家の前に戻ってきた。
「どうだった?」
「あんまり収穫ない。」
「俺はそこの青い屋根の家の人が周りと停電が遅かったらしい。」
「なるほど。」
「それが何を意味しているの?」
「多分、まだ男はパソコンが使えている。」
「じゃあ、彼の家は電気が通っているってこと?」
「だから、光が漏れないように雨戸が閉まっているんだ。」
「彼は自分だけが電気を使えるようにしたから、
保険をかけて身辺は停電になるのが遅かったってことになるね。」
「ますます怪しいね。」
「行ってみようぜ。」
「え?なんか怖くない?」
ピンポーン、
「ちょっ、陣。何押してん?」
「本能。」
「バカ。」
ガチャッ。
三人の間に緊迫感が立ち込めた。
「はい。」
しゃがれた声の男が出てきた。
佐田が先陣を切って話しかけた。
「原口、さん、ですか?」
「なんで、俺の名前を知っているんだ?」
「とにかく話をさせてください。」
「嫌だ。」
「それでも、僕たちはあなたと話さなければならないのです。
どうかお願いします。」
佐田は頭を下げた。
一連の犯人かもしれない相手に対して…。
真琴たちは佐田の行動に突っ立って見ることしかできなかった。
「お前たちはどうなんだ?」
原口は鋭い目つきで真琴たちを見た。
「お、お願いします。」
「お願いします。」
慌てて二人も佐田と同様、頭を下げた。
「けっ、これだから最近の若いもんは。
まぁ、入れ。話だけは聞いてやる。」
何かと上から目線だったが、話が聞けるチャンスはもらった。
玄関から薄暗く、意外にも電気はついていなかった。
階段があり、二階以上はあるようだ。
リビングと隣にはもう一部屋あった。
「まぁ、座れ。」
「は、はい…。」
「で?俺に何の用だ?」
ここでも、佐田が先陣を切った。
「今、僕たちはこの停電の原因を突き止めようとしています。」
「ほぉ、お前らみたいな"ガキ"にか?」
「なんだとぉー?」
陣がその言葉に反応した。
「おうおう、やるか?良いぞ。だが金輪際、話は聞かなくなるがな。」
「陣、今は抑えてくれ。」
佐田が陣を宥めるように小声で言った。
「仲間のことは許してあげてください。」
「佐田先輩…。」
「それで本題に戻りますが、
僕がコンピューターを使ってハッキング履歴を調べた所、
電力会社のデータが遠隔で操作されていたんです。
それで、その住所を調べたら、」
「ここだったというわけか…、あんたよくやんな。褒めてやる。」
「そのことについて、どうお考えていますか?」
「あぁ、確かにこの停電を起こしたのは俺だ。」
まさかの軽く自白したので、三人は共に顔を見合わせてしまった。
「では、あなたは今、自白をしたので不正アクセス禁止法で自首して頂き、
重ねて、元に戻してほしいのですが…。」
「でも、証拠がないと、僕は罪に問われないよ。」
あざ笑うかのように原口は言った。
「でも、今さっき自白したじゃないですか!」
「さっきっていつの事?」
小学生のような返答をされたが、残念ながら録音しておらず
何も言えなくなってしまった三人。
どうしよう。せっかく犯人見つけたのに…。
「証拠ならありますよ。」
佐田が割り切って言った。
「は…?」
「一応、この会話録音しておいたんですよ。初めから最後まで。
自白したときに恐喝などの疑いがかけられると困りますからね。」
「…っふっふ、はっはっはっは!」
原口が突然爆笑しだした。
「あんた抜かりがないねー。まぁ、良いよ。
認める。でも、あんたたちは一つ気づいてないことがある。」
「気づいてないこと…?」
「黒幕だよ。」
「黒幕…?いるのか?黒幕が!」
陣が切羽詰まるような勢いで聞いた。
「誰だろうなぁ。」
「なにで連絡を取った?」
「パソコンのメールだよ。だけど、痕跡を残さない。」
「でも、メールだろ?消去しても何かしら残るだろ?」
「いや、完全消去したから、もうこの世には残っていない。」
「そんな。」
「残念だったな。精々がんばれよ。」
佐田は原口が自白する気配を見せようとしなかったので、
こっそりと警察に連絡していた。
その後、警察が来て少し事情聴取をするために警察署に行ったが、
数分後には帰れた。
14時35分。
三人は自転車でそれぞれの家に向かった。
その間、原口が残した"黒幕"が気になって、
喋ろうにも誰も喋らなかった。
「じゃあ、佐田先輩。私はここで。」
「あぁ。」
「俺もここで。」
「またね、二人とも。」
佐田と別れ、真琴と陣だけになった。
「何やってんの?陣は佐田先輩の下宿人じゃなかったの?」
「言い方!…まぁ、これがあったから、しばらく。」
「お休み…?」
「そうそう。」
「でも、陣方向あっちでしょ。」
「ちょっと話したいこともあるから、それついでに送るわ。」
「急に紳士ー!」
「もとから紳士だろ。」
「どうかなー。」
そんな会話をしながら、自転車を押し二人並んで帰った。
少し沈黙が続いた時、
「なぁ、」
と陣が真琴に話しかけた。
「何?」
「今回の黒幕のことどう思う?」
「うん、見当もつかないや。だって、
あの原口っていう人だって知らなかった人だし。」
「こんなこと真琴に言うのも何なんだけどさー…。
いや、何でもない。」
「はぁ?そこまでいたんなら言ってよー。」
「分かったって。だけど絶対怒るなよ。」
「? う、うん。分かった。」
陣は一呼吸おいて話し始めた。
何か嫌な予感がする…。
「…男たちが来た日、覚えているか?」
「うん。覚えているよ。」
「そんで、チャイムが鳴って先輩は出て、
真琴はトイレに、俺は飲み物を買いに、それで波美華は何をしてた?」
「確か、親に連絡…、まさか!」
「そう。停電中の真っ只中で携帯が使えると思うか?」
「それは、偶然じゃあ。」
「そしたら、今日の予定も何なのかも分からない。」
「陣は波美華を疑っているってこと?」
「あくまで可能性だ。だが…。」
「でも、仮に波美華が犯人だとして何の動機があるの?」
「それは分からないけど…。」
「分からない状態で、友達を疑わないで!」
「…だから、真琴にはいうのを拒んだんだよ。
だけど、お前が言えっていうから。」
「だって黒幕の話、したから!」
「もういい。じゃあな。」
「ふんっ。」
真琴と陣はその日、初めて喧嘩をした。
しかし、メールが使えないため謝ることができず、
仲直りできずにいた。
作戦会議の日程は4月18日 (日)
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