四十九日目 万年筆と手紙

 お久しぶりです。元気にしていますか? 私は元気にしています。あれから随分経って、あなたも各あなたの生活をしていることでしょう。私は、出会ったことのないものにたくさん出会っていい経験をしました。またあなたに会ったら、話したいことがたくさんあります。最近では、買ったジャムに入っていた小さい陶器の人形がかわいくて、……


 キリのいいところまで書いて、ペンを置く。書き始めるときはあれだけ迷ったのに、いざ書き出してしまえば止まらないものだ。いまあのひとはどうしているだろうか。旅に出てから手紙の一通もよこしていなかったな、と思う。

 彼の元を離れて旅に出ると決めて、もう一年かそこら、だろうか。猫を飼った、と近況の手紙が一度だけ来たっけ。そのときにいた地域が殺伐としていたところだったから、手紙を返せなかったのだ。

「……しばらくしたら一度会いに帰ろうかと思ってたけど、気づいたらこんなに遠くまで来ちゃったな」

 大陸、西端の村。最初は彼の元へ戻ろうと考えたのだけれど、今から帰るには遠すぎたから、結局間近で西日を見ようと西端の村にした。日の入りが村の中で一番きれいに見える宿に部屋を取ったし、準備は万端だ。

 心配なのは、

「この手紙、あの人の手元に届くかしら……」

 きちんと間に合うのかどうか、ということ。

 彼と住んでいたときから使っていたお気に入りの万年筆と、紙の生産が盛んであるというこの村で奮発して購入した手触りの良い便箋と封筒。封蝋は持っていなかったからできないけれど。

 この村にたどり着くまでにけっこうな時間がかかってしまったのと、彼の住む場所からこの村はそれなりに距離があるということと、――世界が終わるまで、もう数日しかないということ。

 全然連絡ができていないな、連絡をしたいななんて思っているうちに、まさか世界のほうがさきに終わるなんて思いもしまい。慌てて筆をとったけれど、果たして間に合うのだろうか。

「間に合ったら、いいな」

 明日、投函しに行こう。間に合わなくても仕方がない。確認する術も元々ないのだから。

 数日後に見るのが最後になる夕日の光は、燦然と部屋に差し込んでいた。

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