四十三日目 実は得意
掴んだはずのぬいくるみがぽとりと落ちた。
「あっ」
あともうちょっとだったのに。直前で落ちたぬいぐるみと一瞬見つめあったのちに、そっと財布を取り出した。
「絶対取るんだから……」
「諦めないねぇ」
終了したゲームに小銭を追加するのを見て、クレープを食べていた友人は不思議そうだった。
「ぬいぐるみそんなに気に入った?」
「うん」
「あらま」
ふーん、と言いながらクレープをまた頬張って、これおいしいな、と彼女は呟いた。どうやらこちらのことにはそんなに興味がないらしい。
「このマスコットめっちゃ好きなんだもん……枕元に置いて寝るか抱いて寝るかしたい……」
「おおー」
ゲームが始まると、コミカルな音楽とともにクレーンが動く。狙いを定めて、今度こそ。
しかし、タイミングもばっちり、取れる、と思った途端に、ぬいぐるみは落ちた。さらにはころんと転がって、さきほどよりも離れていく。
「あーーっ」
もう七百円。まだ千円じゃないし……と言い訳をする。そうだ。まだ千円じゃない。まだ四桁じゃないのでセーフ。
よし、と覚悟を決めて財布を再び取り出すと、いつの間にかクレープを食べ終わって紙を捨てに行っていたらしい友人が、こちらを覗き込んでいた。
「わ」
「……これさ」
彼女はぬいぐるみを眺めつつ、なるほどね、だとか言っている。
「次私にやらせて」
「え、……うん。どうぞ」
ちゃりんと百円玉を入れて、彼女はクレーンを操作する。なんてことないみたいな顔をして。
す、とぬいぐるみは捕まれて、そのまま流れるように移動した。そうして、ゴールへと落ちる。
「よし。このサイズのぬいぐるみならこんなもんでしょ」
「えっ」
取れたよ。彼女は一抱えほどもある大きなぬいぐるみを、こちらに差し出した。けっこう欲しがってたみたいだから、一回だけ手伝おうかなって。ということらしい。
「UFOキャッチャー得意だったの……?」
「うん。兄さんがめちゃくちゃ好きだったから、なんか教えこまれた」
ぬいぐるみは、つぶらな瞳でこちらを覗いている。ぎゅ、と抱えた自分に、彼女はにやっと悪戯っぽく笑った。
「……ありがと、私だったら三千円使っても取れなかったかも」
「あれアーム弱いしね」
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