四十二日目 さいごかもしれない写真
ぴしりとシャツを着込んだ彼は、珍しくかっこよく見えた。
「みてみて、かっこいいでしょおれ」
「……うん」
お? 素直じゃん、珍しい。少しだけ驚いたような顔をして、彼は心底嬉しそうに笑った。前言撤回しようかな。
「たまたま会ったから友達にさ、撮ってくるんだ〜〜って言ったら美容院連れてかれた」
「で今日はそんなに美人なんだ」
「そー。鏡見たらすげえかっこよくなっててびっくりしちゃったよ」
「じゃあ、それでいいの?」
「むしろこれがいい!」
遺影。
質問に、彼はにこにこと楽しそうに頷いた。マジでこれが遺影になったらすっげえかっこいいよな、とかうきうきした声音で。そんなことを友人に言ったらどうなるのかわかったものではない。ぶん殴られると思う。
ジャケットもスラックスも皺ひとつない綺麗なもの。これが本物になるかも、と怖いのは何も撮る側の自分だけではないのに、撮られる人たちはいつも飄々としている。昨日来た青年も写真撮られるのってなんかむず痒いっすよねだとか言っていた。
「そろそろ準備してるの?」
「してる! 最近ようやっと武器の扱い慣れた」
「……大変だね」
「おれわりと楽しみだけどなあ。人が相手じゃないだけまだマシなんじゃないかなって思うけど。ま、死ぬときはそれまでってことでしょ。そういう運命だったって諦めるしかないって」
小さい頃から彼のことを知っているけれど、彼は時折、達観したようなことを言う。昔からだ。一種の諦念というのか、たまに遠くを見ているようだな、と思うのだ。
なに、そんな顔すんなよ、と笑われた。くそ。いたずらっ子みたいな顔しちゃってさ。
「……ほら、さっさと撮るよ! このあと予定あるんでしょ!」
「あるー! 今日休みだかんね! 今のうちに遊んどかなきゃ!」
「私とも行く前にどんちゃん騒ぎすんだからね」
「あったりまえだろ!」
思いっきり笑ったやつじゃないと永遠に撮り直しするから! と言ってやった。こんなときくらい幼なじみになんか吐露してくれたっていいのに、と心の中でぼやきながら。
「撮るよ!」
明日、彼は、化け物を倒しに戦いに出る。
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