四十日目 いつもの文面

 連絡が来ても、いつも定型文しか返せなかった。

 いくつかのパターンはあるけれどそれだけで、会話はすぐに終わってしまう。もう少し続けたいと思っても、気づいたときには遅い。さらに送っても気まずくなるだけだ。

 普通に話すだけなら問題ないのに、文面だとやけに緊張してしまうから、だろうか。自然に会話のキャッチボールが続くようにしないと、学生を卒業してもうまくいかないぞとため息をついた。

 そんなことを繰り返していたら、いつの間にか連絡はほとんど来なくなって。すこしだけ寂しいなあ、と思ったりなんかもして。

 随分前はよく遊んだりもしていたが、友人たちや自分の引越しやら留学やらで忙しくなったり単純に距離が離れたりして、もうあまり遊ぶ友人もいない。通話をしたりはするものの、会うチャンスがなくてそのままだ。

「……散歩するかあ」

 ぼーっとしていても仕方がない。せめて見慣れた景色を眺めつつ近くを練り歩こう。

 せっかくだから、どこかでお菓子やら飲み物やらを買って帰ろうか。そう思って、喫茶店のお菓子と飲み物をテイクアウトした。どこを歩こうと考えながら踵を返したところで、声をかけられた。

「あの、」

「……あ」

「久しぶり」

 微笑んでこちらに手を振っていたのは、高校時代の友人だった。旅行好きで、最近はヨーロッパを巡っているのではなかっただろうか。

「ちょっとだけ帰ってきたんだ。しばらくは日本旅行するつもり」

「なるほどね。それだったら温泉とか回るのおすすめ」

 この温泉がよくて、近くの宿にはこんなものがあって。久しぶりだったのに、思っていたよりずっとスムーズに会話は進んだ。

 そんなふうに歩いていたら、時間が過ぎるのは早いものだ。腕時計をちらと見た友人は、もう帰らなくちゃ、と苦笑する。

 また、と別れて、空っぽになったコーヒーのカップを捨てる場所を探した。すると、携帯端末がぶるりと震える。その通知は先程の友人から。文面には、『もし暇があったら、一緒に旅行行かない?』

 それには、ぜひ、と行きたい旨を送り返した。

 だいたいいつも通りの言葉。定型文と変わらない。けれど、なんとなく、今回は違うような気がした。

 だって、予定を組んだり宿を決めたり、相談できることがたくさんあるのだ。それだけ会話も生まれよう。

 そう思うと、少しだけ足が弾んだ。

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