三十七日目 祝酒と人ならざるもの
わぁっ、といくつもの声が上がる。それと同時にガラスのぶつかり合う音がした。
「宴じゃ宴じゃ!」
「今日はどれだけ飲んでも怒られない日ときた。そりゃあ飲むしかないであろう」
「とっておきのを入れたからな!」
大きなテーブルにはありったけの果物に木の実に酒にパイに、とにかくありとあらゆるご馳走が並べられていた。
瓶をラッパ飲みして既に二本だか三本だか飲んでいるものもいるのを横目に、少年は少々申し訳なさそうに眉を下げる。
「……すみません、こんなに祝われることじゃないんですけど……なんだか大ごとにしちゃったかも……」
でも料理はおいしいです、ありがとうございます、と彼は頭を下げる。それに肩に花を咲かせたひとりがくすくすと笑った。
「あら、だあれも気にしちゃいないわ、そんなこと。私たち精霊や妖精は宴が好きなのよ。お酒も好きだし、木の実も果物も大好き。ミルクも大好き。なにかとすぐにどんちゃかやってるんだし、いいきっかけくらいにしか思ってないんじゃないかしら」
木々の影になってはいるけれど、遠くでは酒瓶を争って追いかけっこをしている精霊もいれば、酒に果物を沈めて飲んでいる妖精もいる。ぷは、と呷ってはにこにことおめでとう、と言って、あれでは祝っているというよりのんでいるほうが大きい。
「……なるほど」
「ほらね? あなたが新しいことに挑戦した努力が報われたこともうれしいけど、それより騒いでる方が好きだからね。ほら、あなたもその果実酒飲んじゃいなさい。それだったら人の子でも飲めるでしょう? 百倍くらい薄めたんだから」
「まったく、あっちのじいさんったら人の子にそのまま飲ませようとするのよ。人の子はそんなに強いお酒飲めないって言ってるのに!」
「迷惑しちゃう!」
「……これでも割と強いほうですしね……僕はお酒強いほうですからかまいませんが……」
「あら、そうなの?」
「人の子ってふしぎねえ」
「お互いわからないことがたくさんありすぎなんです」
ひとしきり言い合うと、彼らは互いに笑みをかわしあった。そうして、改めてグラスを掲げる。
「人の子は、こうするんでしょう? ──乾杯!」
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