三十五日目 蝋燭の照らす
傍らの蝋燭の火が、ゆらりと揺らめいた。
「……姫?」
なにか変化があったのかと振り向くけれど、眠る彼女に変わりはなかった。当然だ、眠り続けているのだから。それはそうか、と微かな落胆を覚えながら読んでいた本に視線を戻す。
眠り続ける姫君のもとを通って約一年。一年前と彼女は何も変わらない。ずっと眠ったままだ。魔法のかかった食べものを口にして、その夜に眠りについてから、ずっと。
「……もうそろそろ、起きてくださいよ。待ちくたびれそうなんですが」
何を食べたのか、その食事を作った者は誰で、周囲では誰が何を作っていて、その前に姫が誰とあっていたのかなど、とことん調べあげられた。けれど、今のところ怪しいところは見つかっていない。見つかっていないだけで隠れているのだろうとさんざん言われているが、一年も経って犯人が見つかるのかはもう定かではない。
姫は幼なじみで、仲の良い友人だった。婚約もしていたから、あとは時間を待つのみで。様々な決め事もそろそろしようかと話していた矢先だった。
今まで来た婚約の話は、全て蹴っている。彼女以外を隣に立たせる気はどうしても起きなかったから。
「怒られちゃうんですよ、俺が。別にいいんですけど、あなたも目覚めてくれないと、あなただっていろいろ言われちゃいますし」
まあ、追い出されたりなんかしたら、森で暮らせばいいかなと思っている。自分は動物に愛されているから、森でも暮らせそうねと笑ったのは姫君なのだ。
老いることも死ぬこともなく、こんこんと眠り続けている姫。きっと、彼女の身に起きたのは普通のことなんかではない。わかっているのに、原因はずっとわからないまま。
「毎日ちゃんと来てるの、俺と親しかった侍女だけなんです。笑ってしまうでしょ、みんなそうそうに飽きたみたいだ」
蝋燭の火が消えてしまう前に。取り返しのつかないことを、誰かが起こしてしまう前に。どうか目覚めてほしい。
そっと手を握って、その手の甲に唇を落とした。
果たして蝋燭の火が揺らめいたのは、
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