三十日目 進まない炎
「よし! いくぞー!!」
ジェンガのように積み上げたそれの中に、炎をつけた松明を投げ入れた。風もあるからか、それはものの数秒で燃え上がる。太陽が沈んで暗くなり始めた周囲に、炎はとても眩しい。
「思ってたより早いじゃん燃えるの! なんか曲かけるか!」
「キャンプファイヤーっぽいじゃんいいね」
「キャンプファイヤーとか何年ぶりだろ、小さいころの修学旅行以来だわ」
せっかくそこそこの人数でキャンプをするのだから、幼い頃の修学旅行のようにキャンプファイヤーでもしないか。そう提案したのは誰だっただろうか。乗り気になった皆が薪を集めて、あっという間にキャンプファイヤーは完成していた。知っている曲、有名な曲、キャンプファイヤーと言えばな曲を散々流して、ゆっくりと崩れる薪のタワーを囲んで遊んでしばらくして。疲れたからと休んでいた一人が、ぽつりと呟くように言った。
「……あれ。薪、全然燃えてなくね」
「え?」
「ほら。ぱちぱち言ってはいるけど、燃えるの進んでないよ」
おかしくない?
それから、だんだんとおかしくなっていることに気がついた。
「え、なんかスマホの時計進んでない。ほら、時計のアプリのとこ、秒針」
「ほんとだ、なんで?」
「僕のもだ、動いてない」
楽しい空気が、ものの数秒で凍りついていく。
「時が止まってるってこと……?」
ぱちぱちと炎が弾けるような音はするのに。積み上げた木々が燃えて大きな音を立てることがなければ、崩れることもない。かけていた音楽は、延々と同じ数秒を繰り返している。
あれこれといくつか物を動かしたり、音楽を止めたりはした。それでも、変化は起こらなかった。ならば、何が原因だと言うのか。
未だ燃える薪たちを見上げて、もしかして、と誰かが呟く。
「……これなのかな」
このキャンプファイヤーのせい?
ばしゃ、と水がかけられる。とっくに太陽の沈んだキャンプ場は炎を消す途端に暗くなった。しん、と静まり返る。
「…………あ。時計、動いた……」
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