二十九日目 曇り空から飛んできた

 雨が降りそうな、曇り空だった。

 念の為に傘を持ってきてはいたけれど、家に帰るだけなら雨は降りそうにない。折りたたみでよかったかも、と思わず呟いた。

 今日はもう予定はない。帰るだけだ。雨が降る前に帰ろう。そう思って踵を返して、……視線の先、上空から、何かがこちらに向かってくるのに気がついた。

「……え?」

 あわてて手を伸ばす。肩にしがみつくようにとまったのは、一羽のインコだった。

「インコ? なんで」

 黄色と黄緑が綺麗なごく普通のインコである。警戒はしていないようで、こちらを見上げて首を傾げるばかりだった。

「………おまえ、家は? ……わかるわけないかあ……住所っぽいのとかも書いてないしな……」

 うっかり逃げ出してしまった子だろうか。そう思って記憶を探るけれど、逃げ出したインコを探す張り紙は見た記憶がない。

「遠いところから来たんか? でも飼い主さん心配してるだろうし、逃げ出さないほうがいいぞ、羽あってもさ」

 しゃーない、ちょっとだけ探すか。どうせ傘はあるし。

 隣町まで足を運ぶ。境界線はすぐそこだ。しばらく歩いてみたけれど、インコの張り紙はどこにもなかったし、インコを探しているなんて話はどこからもなかった。ますます不思議になって、首を傾げるばかりのインコに話しかける。

「飛ぶ元気があるならなんとかまだ生きられそうだけど……」

 もといた場所に戻れないのはあまりにもかわいそうだから。

 最悪、交番に預けて飼い主を探してもらう方がいいのだろうか、と思った。しかし、探そうにもインコにはタグなど目印になりそうなものが何一つないのだ。探しようはないかもしれない、とも思う。

「なあ、もし覚えてたら帰ってやれよ、飼い主のとこに」

 しばらく俺のとこで飼おうかな。

 練り歩いて数十分、そう呟いたとたん、インコがふいに身じろいだ。ちょうど小さな神社の前に差し掛かったところだった。

「ここなんだ自分ち。ありがとね兄ちゃん、探してくれて」

「…………え?」

「じゃ!」

 インコはその鳥居の向こうに消えていった。あっさりと。


「……は?」

 インコって。


「……しゃべるもんだっけ……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る