二十八日目 しゃぼん玉に写った

 太陽光に照らされて、きらりと虹色が輝いた。空に浮かんでゆくしゃぼん玉は、やがてぱちんと弾けて消える。

「ほんとに引っ越すの?」

「そう」

 それで会話は終わって、またしゃぼん玉を作り出した。大きなものを作ろうとしたら途中で弾けた。顔にしゃぼん玉の液がかかる。危ない、口に入るところだった。

「……どこに引っ越すの」

「……海外。だいたいここから真反対のとこ」

「遠……」

 答えた彼女は俯いたが、一呼吸ぶんおいて、すっと立ち上がって隣に並ぶ。

「しゃぼん玉、私もやりたい。もう一本ある?」

「あるある。はい、こっちがしゃぼん玉液」

 ふーっ、と彼女がしゃぼん玉を作った。虹色に変化して飛んでいく小さなそれは、いくつか弾けながら消えていく。それを最後まで見つめて、彼女はぽつりとこぼした。

「行きたくないんだけどね、海外」

「……うん」

「向こうの学校卒業したら、戻ってこようと思ってるから」

「うん」

「待ってて。連絡はする」

「わかった」

 申し訳なさそうに言う彼女に微笑んで、申し訳なく思う必要はないと頷いた。だって、仕方がないだろう。親の都合での引越しだ。

 それで心の荷がおりたのか、深呼吸をした彼女は大きなしゃぼん玉を作り上げた。さっき自分が作ろうとしたよりも大きくて綺麗な球体。すぐに割れてしまったけれど、太陽の光を弾いて綺麗だった。

「昔さ、公園でしゃぼん玉作りまくってたよね。おっきい輪っかでしゃぼん玉の中に入るんだとか息巻いてみたりさ」

「あったなー。懐かしい」

 ぶわ、と風に煽られてカーテンがはためく。荒ぶったカーテンは、二人の間でばさばさと音を立てた。

「海外で、成長して帰ってくる。……だから、君もなにかがんばってよ。私もがんばるから」

 表情は見えない。けれど、きっと未来を見据えているのだろうと思った。

「俺でもできそうなことしておくよ。帰ってきてから、いろんな話聞かせて」

「もちろん」

 風がおさまってから見た彼女の横顔は、先程とは違って、輝いて見えた。

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