二十六日目 変わる感覚
いつの日か、求めるようになってしまった。
はじめはそんなはずではなかった。けれど、なんでも手に入るようになったらこれだ。所詮自分も、地位と財産に溺れるような人間だったのだ。
小さい頃は貧乏だったから、なんでもやった。盗みもしたしひったくりもした。市場に並ぶりんごをいくつも抱えて走るなんてよくやったものだ。季節のイベントのマーケットではたくさんおいしいものが並ぶから、隙を見て持ち去ったりもした。仕事につくことができれば一生懸命やった。
転機は、今の仕事だろうか。こつこつとやるうちに、昇格を重ねたのだ。気がつけばそこそこ金を稼げるくらいにはなっていた。
金持ちになって屋敷を買って、だんだんと変わっていってしまったのだ。
街を歩いて物をもらったり、何かと世話を焼かれたりするうちに、されて当然だなんて。そう思ってしまった自分に、なんと愚かしいことかと思った。そんな人間にはなりたくないと常々思っていたはずなのにだ。人間はこうもあっさり変わってしまうのか。
これはいけない、変わらなければならない、そう思った。認識を改めなければと。高い食材でなければだめ、高いアクセサリーでなければ嫌、そんな風に思うのがたまらなく嫌だった。
だから、そんなときにやってきた新人の給仕は、自分にとって救いだった。
「……私に料理を作れ、と……?」
「料理が美味いと聞いた。毎食が無理ならば構わないが、できることなら作ってほしい」
「毎食は、厳しいかもしれませんが……朝と、夜でしたら」
「ならばそれでよい」
庶民の食事を食べ、感覚を戻そうという取り組みから始めようと思ったのだ。
結果から言えば、成功だったのかもしれない。時間が経った今も少しずつ庶民の感覚に合わせていければと勉強の日々だ。
「……ふむ」
明日はどこに足を運んでみようか。
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