二十五日目 いつもと違う先輩
「……あの、何やってるんすか……?」
その日は、特に珍しかった。年に一回あるかどうか、いやそれさえ怪しいような、あの先輩が。
それは朝のことだった。いつも大智が出勤すると、まず見かけるのはその先輩だった。だから、今日もいち早く仕事を始めていて、爽やかに挨拶をしてくるだろうと思っていた、のだが。
来てみればこれである。椅子からそりかえって、ぼんやりとコーヒーを飲んでいる姿、だった。
「あ、あの、」
「んあ、……あ、おはよう小林。今日も早いねー」
コーヒーいる? と気だるそうに立ち上がった先輩に、いや自分で入れますよ、と返したものの、秒で先輩面させろってと言われた。もちろんコーヒーは貰ったし、なんなら渡されたものにスティックシュガーもついていた。甘いものが好きなことを見抜かれていたらしい。
「なにかあったんですか?」
「いんや特に〜? 顔が疑ってるけど、残業酷いの任されたとかそういう仕事関係じゃないかんね? 特別なんかあったとかじゃないんだよほんとにさ」
そうは言っても、明らかに先輩の動きは鈍かったし、どこか眠そうにも見えるし、朝から疲れているように見える。
「体調あんまり良くないなら帰っても……先輩いつも仕事ちゃんとしてますし……」
「や、大丈夫。体調悪いわけじゃないから仕事はできる。こんなんで休んでたらやってられんよ」
「そうですか……?」
朝から元気な先輩とは思えない様子なんですけど、昨日何かしたんですか? 自分のぶんの仕事を始めながらそう聞くと、いてえ、と腕を回した先輩が、こちらを振り返った。
「よう聞くね〜〜。昨日筋トレしたんよ、なんか、ちゃんとしたやつ。友人のジム誘われてさあ」
「……先輩って、普段運動されてます?」
「してると思う?」
「しててもおかしくはない気がします」
「あっそうなの……俺ねえほっとんどしないんだよね。つまり」
「…………ジムで散々しごかれたと?」
「よろしい」
よくわかりましたと言わんばかりの頷き方だった。筋肉痛であるということらしい。
「運動、続けてどうにかするわあ……」
「僕も運動ちゃんとやりたいんで今度教えてくれません?」
「お、一緒に悲鳴あげるか」
「ひえ……」
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