二十四日目 九本の針金

 ひとつ、

 針金を折っていたら、人のような形になった。頭があって、手足があって、でも手だけで作ったから歪な形をした、人の形だった。

 ふたつ、

 その人形に、マフラーのようなものを与えた。なんにもまとっていないのはかわいそうだったから。一本の針ではまともな服なんて作れないけれど、マフラーくらいなら巻いてやることができた。

 みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、

 その人形が住めるかもしれない、家を作った。長さがあるとはいえたった四本の針金で、どうにかこうにか試行錯誤して作った。さんかくの屋根と窓のある家を作ることができた。我ながら、なかなかにいい出来だと思った。これならきっと、人形にも住むことができるだろう。

 ななつ、

 ひとりぼっちではかわいそうかなと思って、小さな犬を作った。元気に駆け回りそうな犬ができた。針金でできた犬だから犬種も毛の色もわからないが、きっと飼い主と遊ぶのが好きな犬であることだろう。

 やっつ、ここのつ、

 せっかくだから、犬小屋も作ることにした。二本の針金を使って、簡単に作り上げていく。先程家を作ったから、案外時間をかけずに作ることができたようだ。時計を見れば、そんなに針は進んでいなかった。

 もうひとつなにか、と視線を上げて、もう針金が残っていないことに気がついた。余った針金は九本だったようだ。あと一本あれば切りのいい数字だったのに。少しだけ残念なように思った。

 目の前に転がる針金のものたちを見る。少しだけならいいだろうか。

 ぱん、と手を合わせれば、彼らは起き上がって動き出すことができる。針金からできたただの物でも、自由自在に。

 ひょこりと起き上がって本物の生き物のように動き出す作ったものたちをしばらく見つめて、少しだけ彼らに遊ばせることにした。もういらない針金で作っただけだけれど、遊んでいる様子が楽しそうに見えたからだ。

 ああ、さっきの作品は乾いただろうか。そろそろだいぶ時間が経ったから、もういいと思うのだけれど。

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