二十日目 書類整理とタルト
終わったものを机の隅に積む。残りはあと五枚。目の前にどんと居座る書類が恨めしい。
家で整理をしていてもすぐに気が散ってしまうだけだと喫茶店にきたからまだよかっただろうか。固まりそうな首を直しがてらコーヒーを含んだ。
家から近いこの喫茶店は、おしゃれな雰囲気なのにいつも満員ではないことが不思議な店だ。店員も少ないが人当たりの良い人ばかりで、気がつけば雑談を続けたこともしばしば。
コーヒーのカップを置くと、書類が目に入ってくる。今週中には提出をしなければならない。面倒だ、と体を捻った。手を何回か握っては開いて、ペンを持ち直す。
喫茶店内は落ち着いた音楽がかけられているから、雑音が苦手な彼でも集中しやすかった。そんなところもこの喫茶店の好きなところ。
「また書類整理ですか?」
「……あ、ええ、そうなんですよ」
「手書きだなんて大変ですねえ」
「普段はパソコンでいいんですけどね、なぜかこれだけは手書きって言われたんですよね」
「変なこだわりですね」
半分ほどまで進めたところで、通いすぎたおかげか仲良くなった店員の一人が声をかけてきた。くすりと苦笑する彼女は、ここで働いて今年で五年目だと言っていたか。
「今週毎日お越しいただいて、頑張ってらっしゃるから、これは私からの差し入れです」
そっと置かれたのは、季節限定の果物タルト。
「たしかフルーツ系のスイーツはお好きでしょう? お金は気にしなくていいので、食べていってくださいな」
人をよく見ている彼女の気遣いは心にしみるものがある。お礼を告げて、ありがたくいただくことにした。季節によって使われたフルーツが違うタルトは、三ヶ月ほど前に食べたものよりも全然違う色合いと味をしていた。まだ焼きたてらしいあたたかな生地とフルーツの甘みがおいしくて、思わず口角が緩む。
今日は書類を終わらせて帰ろう。タルトを頬張って、そう思った。
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