十九日目 薔薇を見る猫
朝目覚めたら猫になっていた。
そんな突飛な話は小説の中だけで結構だ。それなのに。
朝起きたら視線がやたらと小さくて、どうやら四つ足で歩いているみたいで、不思議になって鏡を見たらこの有り様である。どれだけ驚いたことか。今日だけは、天地がひっくり返ってもおかしくないと思った。
学校に行くことはおろか朝食をいつも通り食べることも不可能だったので、あたりをうろつくことにした。家にこもっていても、いつになったら戻るのかと考え込むだけだと思ったからだ。猫の視点で外を見て散歩していれば、気を紛らわすことはできるだろうという考えだった。
幸いにも雨は降っておらず、気持ちのいい晴れ。朝だからか人気はまだ少なく、鳥が鳴き出し人が目覚め始める時間である。散歩をするにはちょうどいいだろうと思われた。
いつもの何倍も小さいから、空がずいぶんと高い。家々がどんと大きくて、通り過ぎる自転車や自動車が怖くなる。向けられた視線は、合わせないように気づかなかったふりをした。
人気を避けてあてもなく歩いていたら、気づけば知らない場所を歩いていたようだった。家の近所のはずなのに、来たことのない道だった。
近所なんだし大丈夫だろうと進んだ先は、──薔薇が所狭しと咲いた庭だった。薔薇の壁は高くて、大きい花ばかりだ。いや、そう感じるのは自分が猫という小さな動物になってしまったからかもしれないけれど。
薔薇の香りが花をくすぐる。咲いている場所によって、香りは少しずつ違った。猫だからわかるのかもしれなかった。黄色の薔薇、赤い薔薇、桃色の薔薇、見たことのない形のものも。
人だったら入れなさそうなところにも入ることができた。棘がひっかかって、少しだけ痛かった。それでも、人では不可能な角度から見る薔薇園の光景には、心躍るものがあった。
その帰り道、猫になってよかったかも、と思ったりもして。
結局、日が沈むと、姿は元通りになった。
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