十八日目 雨林の向こうの

「……やだ」

 ほら行くよと手を引かれて、それでも着いていく気にはなれなかった。

「……だって、この先は呪われた小屋があるんだよ」

「噂でしょ? 所詮噂だって。どうってことないよ。面白そうだし見に行こ」

「いけないって言われたらいけないんだよ! 村長だってこの先だけは行っちゃいけないって言ってたじゃないか!」

 木をかき分けて進もうとする彼の腕を必死に引っ張った。呪われてしまったら戻れない。興味というのは、ときに悪い影響をもたらすのだ。やってはいけないと散々言われていることなんて、やらないに越したことはないじゃないか。

「……そんなに言うなら、しょうがないなぁ……じゃあ、この雨林ちょっと探索してからにしようよ。それならいいだろ?」

 こっちの方向に行かないなら、と、彼は小屋とは反対の方向を指さした。そちらは、大人も子供も植物採集に来ることもあるところだ。ごく普通の生活圏の雨林である。

「……まあ、それなら」

 じめっとした雨林の空気が蒸し暑い。

「じゃ決まりな! この前こっちに見たことない雑草見つかったって聞いたから探そう!」

 意気揚々と、彼は歩みを進めていく。あっという間に姿を見失いそうになる。慌てて小走りに追いかけた。

 あっちがこっちがときょろきょろする彼に追いついたところで、そっと後ろを見る。

 離れた木々の向こう側には、漂う黒い靄が見える。離れたからか先程まで感じていたものは薄れたが、ここまで離れたのに感じるのは、それほど強い呪いということだ。離れられてよかった、彼が本当に向かわなくてよかった、とほっと胸を撫で下ろした。

「はやくあれをどうにかしなきゃいけないと思うんだけど……」

 危ない近づくなと言う癖に、村の偉い人たちは専門の人を呼ぶのを面倒がる。よくわからないものによくわからない人を呼ぶのが面倒で、それにお金を使うことが嫌なのだろう。

 村長が説き伏せてくれることを祈ろう。

「あ! ほら、あれ最近咲いた花!」

「けっこういろんな色あるね!」

 取り返しのつかないことになる前に。

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