十七日目 祈りの演舞

 それを一振りするたびに、鈴がしゃらんと鳴った。

 一歩、二歩と意識して大地を踏む。神様に届くように。祈りが通じますように。

 空を仰げば、森の木々に区切られた空が見えた。

 しゃらん、とまたひとつ鈴を鳴らす。魔よけの音。

 舞を披露するときは、自分以外はほとんど人がいない状態でやる。人に向けたものではないからだ。だから、たくさんの目線が向けられているように思うのは、神様が見に来てくださったから。

 神様、初めてこの森の神殿に来たときよりも、私はずっと大きくなりました。舞だって踊れるようになりました。

 最後にくるりと回って、彼女は深く一礼した。


 神様に関わる仕事がしたい、と思い始めたのは、幼い頃からだった。

 昔、森で迷子になったのだ。窓の外で見かけた綺麗な蝶が気になって追いかけた。その蝶の行く先は、森の中だった。

 気づけば来た道がわからなくなっていて、辺りも暗くなり始めて、初めて不安になった。どうしよう。こわい。

 そして怖くなってうずくまって、さめざめと泣いていたら、ぼんやりとした明かりのようなものが目の前にやってきたのだ。ふよふよと浮いた、蛍みたいなまるい光だった。

 それが誘うように 進んでいってしまうので追いかけると、家までたどり着けた。それを母に言ったら、森の神様のおかげかな、と言ったのだ。

 だから、神様に助けられたのなら、神様に関わるお仕事をしよう、ささやかでも何かお返しする気持ちでやろう、そう思った。

 たくさん練習して、いろんなことを覚えた。一人で舞も踊れるようになった。

 今日の舞を見ていた神様に彼女を救った方がいたかどうかはわからない。けれど、もしかしたら、見ていなくてもどなたかが話すかもしれない。

 お供えものには、助けてくれた神様への思いも含めてある。どうか届きますように。神様に。

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