十六日目 海の中の待ちぼうけ
水草の隙間に、ふと見覚えのあるものを見つけた。水流に削れて苔むしてよくわからなくなってはいたけれど、それはあの人がつけていた宝石のブレスレットだった。
君の目の色が好きでと語った彼は、彼女にとって初めての人間であり友達だった。そんな彼は、船旅に出るのにお守りとしてそのブレスレットを選んだらしい。ふと見つけて、これにしようと思ったのだと。
君にもお土産買ってくるからと言い残して旅に出ていった彼は、それから一度も顔を出してくれてはいない。ずっと待っているのに、一度も名前を呼びに来てもくれないし顔を見せてもくれないのだ。旅の話たくさん持ってくると笑っていたのに。楽しそうで、わくわくしているのがわかったから、どんな体験をしてきたか聞くのが楽しみだったのに。
ぽこ、と泡を作って、尾びれでそれを小さく砕いた。輪っかを作ってくぐって見せるのが彼は好きだった。
瞳の色にグラデーションをかけたような色をした尾びれは、彼女の自慢のひとつである。それは自他ともに認めるもので、今も昔も変わらないところ。今日も綺麗でしょう、と言ったら、彼はいつも微笑んで素敵だよと返してくれていた。
別に何をしたわけでもないし、恋人だったわけでもない。ただの友達だった。彼女だってそう思っていた、はずだった。
けれど、彼と会えないのが長く続いてしまったら、友達だと思っていたのか違う思いを抱いていたのか、もうわからない。もしかしたら、違う思いがあったかも。
気がついたら、そっと除く海辺は、それまでと全然違う景色になっている。海辺に建つ建物の看板も店の名前が変わっているし、店員も見知らぬ顔だ。
「……ちょっと遠くに行くけど、そんなに長い旅じゃないと思うよって言ったの、あなたじゃない…………」
水面に出した顔をじゃぶんと潜らせた。水面から差す日差しは浅い海底を照らしている。スポットライトみたいに綺麗で好きとか言っていたっけな。
「おそいなあ、いつまでわたしを待たせるつもりなんだろう」
来る日も来る日も、彼女はもう来られない彼を待ちわびている。
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