十五日目 扉の向こうの天空城

「この扉でいいの?」

「おう。これで合ってる」

 大きなトランクケースを引いて、目の前には重そうな木製の扉がある。

「確認しよう。何日間の旅行?」

「一週間。今回は百年前まで使われていた天空城と、その周辺の旅行」

「よし。俺さぁ、ぜってぇ写真撮りまくると思って写真いくつか消したんだよな。整理してなかったし」

「やるよねえそういうの。僕も荷物少なめにして、お土産買おうと思ってさ」

「いいじゃん」

 今から二人が向かうのは、扉の向こうの異世界である。この世界にはいくつもの『扉』があって、それらは海外やら異世界やら特定の場所に繋がっていた。申し込めば旅行として扉をくぐることも旅としてくぐることもできる。ただ、飛行機も新幹線も存在するから扉の行き先は異世界が多い。彼らが大学の卒業旅行に行ったときは、別の扉をくぐって地下帝国で遊んだ。

 今回の天空城は、二人が学生時代から長らく行きたがっていた場所だ。高い空に浮かぶ大きな島、そのど真ん中に立つ大きな城。そして、その周囲を囲むように並ぶ街々。山が多く土地に高低差があるため、美しい写真が撮れることでも有名だ。

「写真は撮るだろ、お土産も買うだろ。二日目には演劇のチケット取ってあるからそれ見に行って、ああ、大道芸とか見られたらいいよな!」

「いいね! 今の時期向こうは新しい季節のお祭りやってるから、出店たくさんあるはずだよ」

「金なくなるなぁ」

「このためにお金稼いできたんだから多少の散財はね」

 そりゃあそうか、短髪の青年から笑みがこぼれる。

 荷物を確認しなおして、服装も整えて、踏み出すのはまだ行ったことのない地。

「行くぞ!!」


 あたりは人でごった返して、眼前には巨大な城がそびえ立っていた。

 大小いくつもの塔が並び、壁には細かな装飾。塗装された屋根はずいぶん高い位置にある。首を曲げて見上げなければ、一番上まで視界に収められないほどだった。

 かしゃ、と短髪の青年がシャッターを切る。

「これはまたフォルダが大変なことになりそうだね」

「覚悟はしてたことよ」

 最初はどこ行く? それは決めてなかったな。一週間の旅行は、楽しい思い出になるはずだ。

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