十三日目 感覚予報
幼なじみの衣紗は、未来を視ることができる。
知られると面倒ごとしかないからという理由で、彼女はよほど仲の良い友人にさえも言ったことはないらしい。確かに噂として流れているのは僕も聞いたことがない。唯一家族以外で知っているのは僕くらいのものだろう、幼少期に知ってしまったからだ。
彼女に異能があると知ったのは、たしか小学校低学年くらいのときだった。小学校から帰ろうとしたときに、友達と帰ろうとしていた衣紗が僕に耳打ちしたのだ。「帰り道は気をつけて。なんか危ない気がする」
初めはなんのことかわからなかった。けれど、横断歩道を渡ろうとして突っ込んできたトラックに気づけたのは、衣紗の言葉のおかげだったと思うのだ。お見舞いに来てくれた彼女に礼を言ったら、最終的に回避したのは君でしょと切られてしまったが。
何の縁か高校の進学先も同じだったが、だからといって関係が進むでもない。たまに勉強を教え合うとかばったり会ったときに雑談するくらいで、むしろ話す機会は減っていた。
そんな衣紗が、日付も変わった深夜一時に通話をかけてきた。
「やばいよ律。この先地球上の生き物全ての目が見えなくなるかもしれない」
「……は?」
その声音はいつも通りのものではあったが、少しだけ震えていて、衣紗が多少なりとも動揺していることが伝わってきた。
「目が見えないって、そのまんまの意味で?」
「それ以外に何があるっていうのさ。詳しいことはよくわからないが、とにかく何らかの要因で目が見えなくなる。例外はいない、と思う」
彼女の未来を視る力は、鮮明に視えるわけではない。目視というより夢を見たくらいの曖昧さで、時と場所が詳しくわかるわけではないのだ。いつもはまあなんとかなるだろうくらいで済ませる衣紗が、今回は珍しく焦っている。
「解決策とかは?」
「さあ」
ただ、と衣紗は呟くように返した。
「なんとなく、私が目を取ればいい気がする」
その言葉だけは、妙に確信しているような口調だった。
昔から彼女の直感や感覚がよく当たることを、僕はようく知っている。
「だから、知り合いの闇医者にすっぽ抜いてもらおうと思ってさ」
衣紗の異能の源は左目。眼球ごと抜き去れば、異能はなくなる。彼女の直感によれば、そうしたら悪い予感もしなくなる、つまり目が見えなくなることもなくなるという。
「たぶんね」
たぶんらしいけど。
確信を持って彼女が未来のことを言うのを、僕は信頼している。だから、たぶんでも何でも、おそらく衣紗が目を取ればいい。
「お前の目、銀色っぽくて綺麗だから好きだったけどなあ……まあ、目が見えなくなるのは嫌だし」
「だろう? ああ、私の目が欲しいならホルマリン漬けにしてもいいけど」
「いらないね」
「あそう」
結局通話は、落ち着きたかっただけらしい。明日は大雪らしいぞ、くらいのテンションだったようだ。
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