十一日目 あけたらさいご
その扉を開けてはいけないよ。
昔から、そう言われてきた。
ずっと閉ざされた扉は厳重に施錠されていて、鍵の部分には何重にも鎖が巻き付けられていた。引っ張ってみてもびくともしないので、自力で開けることは諦めてしまったが、なぜか通うことはやめなかった。
なぜか、惹かれるものがあったのだ。派手な装飾や彫刻があるでもないのに、目を奪われてたまらなかった。これをいつか開けたい、開けなければならないと思ってやまなかった。なにがあるか知っているわけでもないのに、だ。
家の書物には、開けたら最後、戻ってこられなくなる、と記されていた。ありきたりなものだ。鶴の恩返しと同じ。禁忌を破ってしまえば、何かしらの代償がやってくる。だから、決まりは破ってはいけない。そうわかっているはずなのに。
学校から帰ってきては扉の前に行って、扉の模様をデッサンしてみたり写真をとってみたり、時には昼寝なんかもした。よく眠れたし、夢を見ることもなかったくらいには安眠だった。
親は、最初の方は注意だったけれど、だんだんと気味の悪いものを見るような目つきに変わっていった。滅多に話すことのない寡黙な祖母は、扉の前に居座る自分を見ると「魅入られたね」と一言発して、あとは何も言わなかった。
しかしなにを言われていようと思われていようと、扉が気になって仕方がなかったのだ。いつかその鎖を解き鍵を開けて、何があるのか確かめてみたいと思っていた。きっと素晴らしいものがあると思いこんでいたから。
その日も学校から帰るなりスケッチブックを手に扉の前でスケッチをしていた。いつも描いていたから扉のデッサンでけは上達して、随分リアルに描けるようになった。あとは鎖と鍵だけ。そのまま描こうとして、一瞬考えて、鍵の開いた扉を描こうと手を動かすことにした。ただの空想。そのはずだった。
解けた鎖と開いた鍵を描き終わるなり、ごと、じゃらじゃら、と音を立てて鍵と鎖が落ちた。え、と顔を上げると、そこにはぎいい、と開こうとしている扉が目前だった。
ああ、やっとそっちにいける。やっと。
その思考を最後に、少年は扉の先の光に飲み込まれていく。
扉が再び閉じると、そこには厳重な封印のされた扉の絵があるスケッチブックと筆記用具しか、残ってはいなかった。
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