六日目 逃避行ステップ
わ、と小さく呟くような感嘆。
まだ息切れも治まらない中、足を止めたのはお屋敷だった。廃墟かな? 不法侵入だよ、なんて言い合いながらも、お互い声が跳ねていたのはきっと仕方のないことだった。だって、誰もいなくなったこの土地一帯の森に、人が住んでいるはずなんてない。十年前後前に、北方の地域からは人が軒並み出ていったのだ。
だから、森の奥にある大きな屋敷は、その十年ほど前の誰かが使っていたものだろう。
入ってみれば、扉は蝶番が錆びて大きな音を立てたし、あちこちに蜘蛛の巣が張っていた。とてもじゃないが住めはしない。
「あわよくば住めないかなーって思ったんだけどなー……」
「これじゃ無理でしょ。……まあでも、数日過ごすくらいならなんとかなるんじゃないかな、……たぶん」
一応確認はしたけれど、自分たちの他には誰もいなかった。本当にわたしたちだけだね! とメアリが笑う。
てきとうな大きめの部屋を見つけて掃除をして、ベッドもソファも埃やら何やらで使えないから自分たちのテントを張る。変なの、なんてメアリが笑うから、ミィネも思わず笑みがこぼれた。
月が昇った夜になって、メアリがあ! とテントから這い出た。
「ね、ミィネ。さっき見たとき、大広間あったじゃない?」
「……? そうね。あそこでテントを張ってもよかったけれど、せっかくなら寝室っぽいところで寝たかったから……」
「ちがうの! こんな森の中は、すごく空が綺麗に見えるの。だから、一緒に、夜空見に行かない?」
そうだった。メアリは空が好きな子なのだ。
バルコニーから見る星と月は、それは美しいものだった。今までずっと逃げてばかりでそんなものを見る余裕もなかったから。綺麗だね、なんて言おうと思ったけれど夜空に見入るメアリには言えなくて、そっと手を差し伸べる。
「ね、踊ろうよ。せっかくの大広間だから」
「もちろん!」
踊り方なんてしらない。それでかまわない。わたしたちしかいないのだから。
「ねえミィネ、星が綺麗だね!」
「ええ、……せっかくなら、明けの明星が見たいわ」
──それは、月だけが知っている。
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