四日目 願いを零す涙の

 その墓地には、重くなる空気を払拭するようにみずみずしく花が咲いていた。

 ゆるやかな風が吹くたびにふるりと花が揺れ、囁きのように葉のこすれる音が連鎖していく。

 すずらんのような、スノーフレークのような、袋状の形の花弁。白いそれは墓石の灰色よりもまぶしく光を跳ね返す。

 ふいに隣の花が頭をもたげた気がして、ブラックドッグは視線を向けた。傍らにある花はふるふると揺れているけれど、特に変化はないように見える。しかし、しばらく揺れていた花は、垂れた花弁を重たそうにもたげると、ぽたり、と雫をこぼした。

 その水滴に映るのは、楽しそうに庭の花に水をやる夫婦。窓辺のテーブルでお茶とお菓子を広げて、お茶会をする様子までもがゆらりと映っていた。

 その雫が落ちてしまう前に受け止めたブラックドッグは、ぺろりとそれを舐めとる。ついで傍らの墓石にそっと擦り寄って、くうんとちいさく鳴いた。


 その墓地に咲く花は、一輪一輪すべてが眠りについたものの花だ。その人が生前想い続けた願いや夢、かと思えば幸せな記憶まで。多くは願いが多いけれど、たまにそんな景色も雫に浮かぶ。

 墓地の番を受け持つブラックドッグは、そんな花のこぼすしずくを舐めとることで次の生へつながるようにしていた。今生の願いが、来世で叶いますようにと祈りも込めて。

 次に滴り落ちたのは、若くして亡くなった少女の願い。大きくてふわふわの犬が飼いたかった、抱いてみたかったという夢だ。

 少女は生前独りぼっちだった。両親は仕事やら何やらで忙しくあまり家にはいないし、友達も多い方ではなかったから、せめて犬や猫のような『ともだち』がほしくて。

 他にも、多くの願いが溢れてはこぼれていく。たった一匹で墓地を見守るブラックドッグは、その日も願いをこぼす花の涙を舐め取っては、来世で叶うことを願った。

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