二日目 秘密基地の電柱

 なんでもない市街地の隅の電柱。それには、よれた線で扉らしきものが書いてある。四角の中に、小さな丸。

 まわりに誰もいないことを確認したら、落書きに向かって話しかければいい。すると、かちゃりと小さな音を立てて、向こう側に扉が開いた。光輝く扉の向こうへ、するりと滑り込ませる体。

 その電柱の落書きは、落書きではないのだ。自分だけが知る、自分だけの、秘密基地。遊ぶ場所も、知らなかった遊び方も、秘密基地が教えてくれるのである。毎日通っても飽きない場所だ。

 あまりにも楽しいから、ぼくは友だちに秘密基地のことを教えて、おいでよ、すごく楽しいんだよ、と誘ってみた。

 放課後、二人で散々遊んで走り回って、ちょっと疲れたころ、そろそろ帰ろうか、と友だちが言う。ここを出ても現実の時間は経っていないけれど、気持ちのいい疲れだからそんなに問題はない。そうだねと頷いて振り返ったところで、ぼくたちはかちんと固まることになる。

 入ってきたはずの入口が、どこにもない。特徴的な細長い扉が、どれだけ見回してもない。

「ねえ、ここって、どうやっていつも帰ってたの?」

 どうやってもなにも、同じ扉をくぐって帰るんだよ。


 そのときぼくは、すっかり忘れていたのだ。電柱の扉の掟を。

 曰く、相手が知ってしまうのは構わないが、誰にも教えてはならない。教えてしまったら最後、その扉は地球のどこかの柱に移動して、帰れなくなってしまうのだと。

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