50日×800字
有梨 無十
一日目 その杖で叶えたいもの
こんこん、と二回。半分地に埋まった石を、杖が叩く。
「……本当に、やるの?」
「やるよ」
眼前に広がるのは、蔦に絡まれ苔に覆われた、古代の神殿らしきもの。その入口の前にある大きな石の上に立って、再びこんこん、と二回石を叩く。
「でも、何が起こるかわからないんでしょ? もう昔の記録なんかろくに残ってないから古代のものに関わるのは危険だって、お師さまも言ってたじゃない」
不安そうに言うのは、相棒のミリル。魔法使いだ。
「でも、願いがあるんでしょ? ミリルにはさ。それなら願ってみようよ、一度だけでも。『神殿には隠されたものがある』って少ない文献にもあったじゃないか。探してみよ」
「……うん」
はじまりは、ぽつりとミリルがこぼした呟きからだった。『とある記録を探している』と。もう記憶も朧げでほとんど覚えていないけれど、忘れてはいけない気がするのだと。
それを聞いたヒースは、ひとつ提案をしたのだ。誰も開いていないとある古い神殿には、数多の資料が埋まっているのではないかと言われている。行ってみないか、と。
そんなわけで師匠との家を抜け出して来たわけなのだが。真面目なミリルは、不安なようだった。心配そうに魔法の準備をするヒースを見つめる彼女に、ヒースはにこりと笑う。
「平気だって。二人もいるんだから。何かあったら俺がなんとかする。提案したのは俺だからね。心配しなくていいよ、ミリル」
こんこん。二回。
こんっ。杖が、石を叩く。
「──よし。いくよ、ミリル」
「う、うん」
文献にかろうじて載っていた、閉ざされた神殿の扉を開ける言葉を紡いでいく。その間にも、杖は一定の間隔で打ち鳴らす。
それから間もなく、ごごご、と重苦しい音を立てて、扉は開かれた。入れば後戻りはできなくなる。二人だけの大冒険。
「あいた、ね」
「よかった、開け方間違えなくて。行こう、ミリル。きっと何かがあるよ」
暗くて外からでは中が見えず、不気味だった。それでも、魔法で小さな明かりを灯してミリルとヒースは入っていく。
探しているものが、見つかりますように。ミリルが確かめたい記録を見ることが、叶いますように。
たとえ、その末に何を見ようとも。君と一緒なら、何も怖くないから。
魔法使いの若者二人は、杖を片手に握りしめ、神殿へと足を踏み入れていった。
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