ぱちぱち、線香花火/音哉×奏斗(高校生)
ぱちぱち、ぱちぱち。小さな火花を弾けさせている線香花火を見つめる奏斗の顔を、俺の目の前にあるろうそくの炎が照らす。少ししてぽとんと地面に落ちたので、手に持っていた線香花火を手渡すと、奏斗はおもむろに受け取ってまた火をつけた。その横顔は、やっぱりどこかうかない。
奏斗の横に置いてあるバケツには、すでに遊び終わった花火が何本もささっていた。「花火やろうぜ」と言われて奏斗の家にやって来た時にびっくりしたくらい豪華な花火セットが、今では線香花火数本を残すのみになっていた。腕時計もしてきてないし、ここからだと家の中の時計も見えないから時間が分からない。何時になったんだろう。家までは歩いて一分ちょっとだから、何時になってもかまわないんだけど。それに、どうせ奏斗と一緒なら、心配されないし怒られもしない。
奏斗に突然呼ばれてやってきて、花火をはじめた頃はいつもみたいにきゃーきゃーうるさかったのに、花火の数が減るにつれて奏斗の口数が減っていった。残りが線香花火だけになった頃にはほとんどだんまりで、俺はもともとこいつほどしゃべるタイプじゃないし、時折車が走っていく音と虫の鳴き声がする以外は静かだった。俺は壁にもたれかかりながら、奏斗が線香花火をする様子をぼーっと眺める。
「なんか、つまんない」
「……花火ももうないしな」
「そっちじゃない」
ぽとり。最後の線香花火が地面に落ちて、ため息をこぼしながら奏斗は立ち上がった。
「もう音哉帰らなきゃじゃん」
「……いられるんだったら、まだいたいけどな」
今は夏休み兼お盆休みなんだが、明日親戚の家に行くとかなんとか言ってたから実質暇な日は今日くらいしかない。奏斗は今日いろいろやってきたみたいで、逆に明日は暇らしい。今年は運が悪い。去年は休みがかぶったから朝から晩までとにかく遊んだ。
奏斗とは毎日顔を合わせてるけど、二人きりの時間はまた別だ。一緒に部活をするのも楽しいけど、二人きりでいちゃいちゃする時間も欲しい。
「せっかくの休みなのに、今日しか会えないなんてさ」
「ごめん」
「音哉のせいじゃないよ。……でも、やっぱりさみしい」
それは俺もだ。隣の奏斗の頭を引き寄せて、中学の時コンクール前によくやってたみたいに頭をぽんぽんと撫でてやる。そしたら奏斗が抱き着いてきたから、俺も背中に腕を回した。相変わらず小さいなぁ。
「音哉背伸びた?」
「いや。むしろ少し縮んだけど」
「もっと縮めーっていうか俺によこせー」
中学までは身長ほぼ一緒だったのに、いつの間にか俺が追い越していた。俺が特別でかいってわけじゃない。奏斗が小さい。言うと怒るから言わないけどさ。確か、高校男子の平均身長が170センチだったと思うから、160いってない奏斗がどう考えても小さいよな。
「……ね、音哉」
しばらくそのまま無言で抱き合っていて、不意に奏斗が顔を上げた。奏斗が少し背伸びをして顔を近づけて、唇に柔らかいものが触れた。
最初はそっと触れるだけの軽いキス。奏斗が俺の首に腕を回してきたから、俺からもキスを返す。奏斗のより、少しだけ長く。
もちろん、すぐ後ろの奏斗の家には奏斗のお母さんがいるわけだが。道路からもばっちり見えてるかもしれないが。夜だから問題はないだろう。実際している最中はそんなこと頭になかった。とにかく夢中になってお互いの唇を貪り合うように結構な時間と回数のキスをしていた。……と、思う。
「んーまだ足りない」
気が済んだのか、顔を離してもう一度奏斗は俺の肩に顔を埋める。
今何時だろう。さすがにそろそろ帰らないとまずいか。ポケットの中の携帯が震えた気がする。
「……うちに泊まりに来るか?」
「えっ? でも、明日音哉ん家お母さんの実家に行くんでしょ?」
「午後に行くって言ってたから大丈夫だろ」
「で、でも……」
めずらしくしぶる奏斗。無理にとは言わないけど、俺だってせっかくの休みなんだし、まだ奏斗と一緒にいたい。俺だってまだ足りない。
お泊まりなんて小学生の時から普通にやってたし、文句は言われまい。「奏斗今日泊まっていくって」と一言言えば大体「あらそう」で終わる。逆もしかり。
「め、迷惑にならないなら……」
「大丈夫だって。それに、俺だってまだお前といたいからな」
ぱぁっと奏斗の表情が一瞬で明るくなった。もう一度小さく背伸びして触れるだけのキスをすると、慌ただしく家の中へ入って行った。すぐに俺の家に泊まりに行くからとおばさんに報告する声が聞こえた。
奏斗と奏斗のお母さんのやり取りが数回続いた後で、玄関から奏斗が顔を出してにかっと笑うとすぐにまた引っ込んだ。忙しい奴だ。奏斗の準備を待つ間、ろうそくの火を吹き消して後片付けをする。……馬鹿だ、俺、最初にろうそくを消したら真っ暗になるじゃん。まあいいや。
「準備できた! 行こう音哉!」
「あぁ。バケツとかは? このままでいいの?」
「その辺に置いといて! 明日捨てるから!」
いいから早く早くと俺の腕を引っ張る奏斗。そんなに焦らなくてもいいのに。
奏斗の家から俺の家までは一分もかからない。
スキップしている奏斗の背中を見つめながら、今日は徹夜確定だなとどうでもいいことを考えた。もしかしたら奏斗が先に寝てしまうかもしれないけど。明日は実家に行くらしいけど、どうせ車の中は暇だから行き帰りに寝ればいい。奏斗と二人きりで過ごせる貴重な時間なんだし、吹部にとっては貴重な休みでも、奏斗のためなら徹夜くらいどうってことない。
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