第117話 体育祭

4月末


「先輩!」

「せんぱ〜い!」

愛美とアリサの2人が駆け寄ってきた。


「2人とも久しぶり」


「先輩会いたかった!」

「せんぱ〜い!私たちに会えなくて寂しかった〜?」

2人とも俺の腕をつかんで控えめに甘えてくる。

流石に人目があるからな。


「俺も会いたかったよ、会えなくて寂しかった」


「へぇ〜?そっかぁ〜、寂しかったの〜?センパイも可愛いねぇ〜?」

背伸びをして俺の頭を撫でてきた。


可愛いけどなんかムカつくな?可愛いけど。

俺も対抗してアリサの髪をわしゃわしゃと撫でてあげた。


「わ〜、も〜!せっかくセンパイに会えるから綺麗にしてきたのに〜!」

嬉しいこと言ってくれるなあ。

文句を言うわりに顔は嬉しそうだ。


今日は俺たちの母校でもあり、愛美達が通っている高校の体育祭に来ている。

高校最後の体育祭で、妹を含めて3人ともチアダンスをやるらしく衣装が可愛い。


「めちゃくちゃ似合ってるね衣装しっかり見せてよ」


「うん!」

「いいよ〜!」

愛美は少し照れながら、アリサは自信満々にその場で一回りして衣装を見せてくれた。

衣装はミニスカートで綺麗な脚が見えるし、上はノースリーブになっているので二の腕も見える。


スカートの中は体操服を履いていてガードもしっかりしている。

今度衣装を家に持って来てもらおう。

その時は体操服は無しだな。


髪は高い位置でポニーテールに纏めた髪がふわっと揺れて可愛い。

アリサはツインテールにしていることが多いし、愛美もサイドテールが多いから珍しい髪型を見る事ができた。


「2人とも可愛いね!」

「可愛い〜!」

「いいなー!聖奈も着たいなー!」

「似合ってるね」

彼女達からも好評みたいだ。


「あ、お兄ちゃん!先輩達も!来てくれたんだー!」

妹の彩華もチア衣装を着ている。


「3人の最後の体育祭だし流石に来ないとね」


「パパ達あっちの方にいるよー、アリサと愛美達の家族も一緒のとこ!」

そういえばそうだ。

愛美やアリサの両親もいるんだよな・・・。

あんまりイチャイチャは出来ないな。


「後で顔見に行くよ」


「じゃあ、そろそろ私達行くね〜!ちゃんと見ててね〜!」

「先輩また後でね!」


「うん、頑張ってね」

3人手を繋いで行ってしまった。

仲がいいなあ。


周りを見渡すと、体操服をきたJKが沢山いる。

チア衣装だけじゃなくて普通の体操服もいいなあ。

2度目とはいえ高校生時代は当たり前の光景になっていたけど、卒業して当たり前の光景じゃなくなるとありがたい物になる。

これも今度持ってきてもらうか。


「浩介、何見てるの〜?そっちに2人はいないでしょ〜?」

さすが渚、目敏い。

他の女の子を見ているとすぐバレる。


「いや懐かしいなぁと思って」


「ふ〜ん?」

逆に考えると渚はいつも俺のことを見てるのかな?

そう考えると可愛いなあ。


「渚可愛いね」


「も〜、すぐそうやって誤魔化そうとする〜。そう言ってもらえるのは嬉しいけど」

ちょろいな。

嬉しそうな、文句を言いたそうな、どっちつかずの顔をしている。




「美味しいね!流石美咲先輩!」

お昼休憩の時間、美咲がメイドさん達と一緒に作ったお弁当を皆んなで囲む。


「私だけじゃなくて、由依も一緒に作ったんだよ!」


「美咲がほとんど作ってたけどね、私はちょっと手伝っただけだよ」

美咲の料理は本当に美味い。

今ではメイドさんに任せることもあるけど、大半は美咲も関わっている。


「美咲も由依ちゃんもありがとう、美味しいよ」


「先輩達さっすが〜!毎日食べたいな〜!」


「2人は家族と食べなくていいの?」


「うん!お昼は先輩達と食べるって言ってあるから!」

ご両親には可哀想な事をしたかな?

娘の最後の体育祭なのに一緒に食べられないのか。


「これ食べたらデザート持って向こうで食べよっか?」


「うん!そうする!」


「センパイそんなに気を使わなくていいのに〜」


お弁当を食べ終わった後、彼女達6人と俺と由依ちゃんの8人全員で親達のところに向かう。

関係がバレやしないか少し緊張する。


アリサの親は聖奈の引っ越しの時にも家に来たけど、愛美の親とは初めて会う、のかな?

大丈夫かな・・・?


「あ!愛美!アリサ!先輩!」

近くまで寄ると、彩華が気づいた。

彩華は両親と一緒に食べていた。


「お、浩介じゃないか。ぞろぞろとどうした?」

父親も気がついたようで声を掛けてきた。


「いや、この2人の親御さんも一緒に食べたいかと思って」


「そうか」

父親は俺が気を遣ったのがわかったのか、少し満足そうな顔をしている。


「愛美、ちゃんとご飯食べた?まだおにぎりとかあるけど食べる?」


「お母さん大丈夫だよ、いっぱい食べてきたから!先輩が気を遣ってくれて、デザートだけこっちで食べることにしたの!」


「あら〜、浩介君だっけ?ありがとう」

愛美のお母さんは綺麗な人で、人の良さそうな感じだ。


「も〜!パパやめてよ〜、恥ずかしい!」

アリサの方は父親に頭を撫でられて嫌がっている。

お父さんはアリサの事を溺愛しているみたいだ。


聖奈に対しては可愛がってはいるが一歩引いたような感じだ。

聖奈とお父さんは義理の親子関係だし、まあそうなるか。


「聖奈、元気にしてた?もうちょっと家に帰って来なさいよ」


「うん!元気だよー!んー、でも家まで帰るの面倒なんだもん!」


「お友達と仲良くしてる?あ、浩介君も久しぶりねー、いつも聖奈がお世話になってごめんね」


「いえいえ、こちらこそお世話になってます」

色々と。


「来年は皆んなで東京にお引っ越しするんでしょう?聖奈だけじゃなくて、アリサもお世話になるって聞いているけど」


「あぁ、うちの愛美もお世話になるって聞いたなぁ」


「そうですね、ご両親の方で反対とかでなければですけど」


「東京にやるのは心配だけど、皆さんがいてくれるなら。まあ大丈夫かな?」

「浩介君にはお世話になりっきりで申し訳ないと思って。迷惑ではない?」


「全然、居てくれると家が楽しくなるので」


「そう?ありがとうね、これからも宜しくお願いします」

「愛美のことも宜しくお願いします」

アリサ、愛美それぞれの両親から頭を下げられた。


思いがけず来年の話も出来た。

手間が省けて助かった、これで何の心配もせず引っ越しを進められる。




食事も終わり、1人でトイレに行った帰りに見覚えのある顔がこっちに近づいて来た。


「浩介先輩お久しぶりです」


「誰だっけ?」

前回の事が印象に残っているからしっかり覚えている。

文化祭の時にアリサに告白したいと言ってきたやつだ。

なんとなく嫌がらせで覚えてないふりをする。


「うっ、そうですよね。アリサちゃんに振られたヤツの事なんて知らないですよね」

あ、振られたんだ。

残念だなあ、可哀想に。

アリサは全然そんなこと言ってなかったけど。


「あー、思い出した。アリサに告白するとか言ってたヤツか。いつ告白したの?」


「先週、体育祭の練習の帰りに・・・、好きな人がいるからって、先輩の事ですよね?」

最近の事か、アリサに会ってなかったからな、言う暇もなかったのか。

文化祭から随分と時間が空いたけど今まで何してたんだ?


「さあ、俺の事かどうかは知らんけど」

まあ俺のことなんだけどな。


「くっ!なんなんですか!?絶対先輩の事ですよね!?放課後誘っても、いつも先輩の家に行くって断られてるんですよ!?」


「そうなんだ」

一応頑張ってはいたんだな。


「今まで両手足で数え切れないくらいの男子が告白して、撃沈して来てるんですよ!?愛美ちゃんにも何人も断られてるし!先輩なんなんですか!?凄いイケメンでもないくせに!」

アリサも愛美もモテるなあ。

俺の顔がイケメンじゃなくて悪かったな?

てか喧嘩か?喧嘩売られてる?


「あ、そう。じゃ、忙しいから」


「えぇぇ・・・」


「いや、そんな事言われても俺どうしようもないし」


「まあ、確かに・・・。いやいや、先輩もう彼女いるんだから、ちゃんと断ってあげてくださいよ!可哀想だと思わないんですか!?」

断るも何も、な。

良いことを教えてあげるか。


「いや、面倒。てか来年から一緒に住むことになってるし」


「はぁぁぁぁぁ???」

反応がいちいち面白いな。

もう少しコイツで遊びたい気持ちもあるけど、これ以上反応がなさそうだ。

唖然として、固まっているヤツは放っておいて、皆んなのところに戻った。





「「「ただいま!」」」


「おかえり、今日はお疲れ様。ダンス可愛かったよ」

体育祭が終わった後、愛美とアリサ、彩華の3人が家にやってきた。

3人が家に来るのは大分久しぶりな感じがする。


「先輩!今日来てくれてありがとう!」

愛美が珍しく真っ先に抱きついてきた。

寂しかったのかな?

可愛いなあ、もっと構ってあげないと。


アリサも負けじと抱きついてくる。

2人とも学校では我慢していたらしい。


チアダンス可愛かったなあ。

お昼を食べた後すぐの順番だった。

ダンスもうまかったし、それに合わせて揺れるスカートとポニーテールが素晴らしかった。


「2人とも体育祭も勉強も頑張ってるから、これプレゼントあげるね。ちゃんと受験もがんばるんだよ?」

早速杏奈と香菜ちゃんと一緒に買ってきたプレゼントを渡すことにした。

喜んでくれるといいんだけど。


「え、いいの!?先輩ありがとう!」


「やった〜!会えない時も私たちの事考えててくれたんだね〜?ありがとう!」

2人とも早速袋から取り出して、中身を取り出した。

箱から中身を出すたびに可愛い!とか、すごい!とか歓喜の声が聞こえてくる。


「こんなにいっぱい!本当にいいの?ありがとう!」


「ありがと〜!センパイやっぱりセンスいいね〜!大好き!」


「まあ、杏奈と香菜ちゃんに選ぶの手伝ってもらったんだけどね」

喜んでくれてたようでよかった。

彼女達の喜ぶ顔が見られただけで買った甲斐があると言うものだ。


「そうなんだ!杏奈さんもありがとうございます!」


「私はただついて行っただけだから」


「私も香菜ちゃんと遊びたかったな〜!この前テレビにも出てたよね〜!」

香菜ちゃんはこの4月からテレビ番組のレギュラーにも抜擢されている。


「ねぇ、兄ちゃん私にはないのー?ひどーい!」

そういえば彩華も居たんだった。


「まあ、そういうと思って2人のついでに一応彩華の分も買ってあるよ」

自分だけ貰えないとうるさそうだしな。


「ついでってひどーい!でもちゃんと準備してたんだ!さっすがお兄ちゃん、ありがとう!」


「流石に彼女と妹じゃ扱いも違うよ」


「それもそっか!」


「そういうこと。みんな勉強頑張れそう?」


「うん!頑張る!先輩に勉強教えて欲しいな!」

期待の眼差しが・・・受験勉強なんて大分忘れているけど、どうしようかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る