第77話 杏奈

ベネチアでの最初の夜。

夕食も食べ終わり、ホテルの部屋のテラスで杏奈と2人きり。

みんなは他の部屋で待っていてくれてる。


「夕日も綺麗だったけど、夜景も綺麗だね」


「ね、でも杏奈の方が綺麗だよとか言ったらクサすぎかな?」


「ふふ、そうだね。でもそう言ってくれるのは嬉しいよ」


夜景を見つつ、俺も杏奈も言葉数が少なくなる。

無言でも全く嫌な感じはない、むしろ落ち着く。

杏奈も同じ気持ちだといいんだけどな。


「・・・私ね、卒業してからずっと考えてたんだ」

徐に杏奈が口を開く。


「うん」


「浩介の彼女にはなりたいけど、たくさんの彼女がいるのはどうなんだろうって」


「うん」

聞き役に徹しよう、杏奈がどう考えているのか知りたい。


「私だけを見てくれないのは嫌」


「そっか」

これはダメかな・・・?


「でも美咲とか渚とか、あの子達見てると全く嫌そうにしてないし、楽しそうだなって思っちゃった」


「そうだね、毎日楽しいよ」


「私彼氏できたことないんだ」


「うん」

知ってる。中学入ってからずっと一緒にいたし、部活もそのために作ったようなところがあるし。


「・・・だから、初めてできる彼氏なんだよ・・・私のこと、大事にしてね?」


「それって彼女になってくれるってこと・・・で良いんだよね?」


「うん」


きた!え、ほんとに!?いいの!?

杏奈の顔を見ると、少し赤く、照れているように見える。


冗談ではなさそうだ。もちろんこういう冗談を言う子ではないけど。

まじか、よかったー!断られるかと思った・・・安心した。


「ありがとう!杏奈のこと大事にするから!絶対後悔させないから!」


「初めての彼氏が他にも女の子と付き合ってるって最低だよね」


「・・・まあ、うん」

でしょうね。俺が杏奈の親とか別の友達だったら絶対止める。


「でも、好きになっちゃったからしょうがないよね。これからよろしくね?」


「よろしくね!」

そう言って杏奈にキスをする。


「好きだよ」


「私も」


2人で手を繋いで彼女達が待っている部屋に行く。

なんか気恥ずかしいな。


ただ由依ちゃんだけは彼女じゃないんだよな、彩華もいるけどそれは妹だし。

疎外感とか感じさせないようにしないといけない。


「おめでとう!」

「やっぱり〜、そうなると思ってた〜!」

「彼女同士よろしくねー!」

「これで杏奈先輩も一緒ですね!」


「愛美ちゃん、もう敬語じゃなくて良いからね」


「はーい!じゃあ、私のことも愛美って呼び捨てね!」


「うん、わかった」


「じゃ〜今日は、浩介と杏奈が一緒の部屋だね〜?」


「うん、そうだね!」

「さんせー!」

「良いと思う!」


渚はニヤニヤしている。

こういうの好きだよな〜、ありがたいけど。

杏奈は少し顔を赤くして、緊張した様子だが、一緒の部屋で寝ることを拒否はしなかった。





次の日


「昨夜はお楽しみでしたね〜?」


「ほら渚、からかわないの!」


「杏奈どうだったー?」


聖奈・・・そういう話は俺のいないところでしてほしい。

というか、今までも彼女達だけで色々話されてるんだろうな。

気にはなるけど、聞きたくはない。


「ほら、杏奈の顔が赤くなってるから、早くご飯食べに行こう」


「はーい!」


「あとでじっくり聞かせてね〜?」


ホテルのテラスで4人ずつ、テーブル2つに分かれて朝食をとる。

目の前は運河で、天気もよくて気持ちがいい。


「そういえば杏奈は一緒に住めないの〜?」


「あ、確かに!」


「私も住んでいいの?」


「当たり前でしょ〜?」


「部屋はあるし、家具とかも入ってるからね」


「でもアパートも借りちゃったし」


「それはそのままでも良いんじゃない?解約するならお金とか出すし」

半同棲みたいな形なら問題も少ないはず。


「ちょっと考えてみるね」


「まあ、服とか日用品だけ持ってくればすぐに住めるから、気軽に考えてよ」


今日は、お昼にゴンドラに乗る以外は予定を決めていない。

昨日の場合は、夕日を見るのが目的だったが、今日は観光案内がメインだ。


ゴンドラに乗ったあとは、街歩きをして過ごす。


「歩くだけでも楽しいね〜!」


「探検みたいで楽しいね!」

人1人がようやく通れるような細い路地を歩くと、本当に探検しているような気分になる。


「杏奈は大学入ってもモデルは続ける?」


「うん、そのつもり。嫌じゃない?」


「もちろん!杏奈のことは応援してるよ」


「モデルやれてるのも浩介のおかげでもあるから、できるだけ続けたかったんだ」


「手伝えることは手伝うからね」


「ありがとう」



次の日は、街を歩きながら買い物をした。

夕方にはまたゴンドラに乗り、夕日を楽しむ。


最終日は観光する時間もなく、朝に空港に向かい、飛行機で1泊して帰国する。


「成功してよかったね!杏奈とも一緒に住めるし!」


「ありがとう、楽しみだね!」


「私のこともちゃんとみてね?」


「当たり前でしょ?美咲のこと蔑ろにしたことある?ずっと一緒だからね」


「えへへ、ありがとう!でも、杏奈のことも、みんなのこともちゃんと大事にしてね?」


「うん、大事にするよ」


昼過ぎには自宅に帰り着いた。

杏奈はひとまず自分のアパートに帰った。


1週間で3都市を観光するのはなかなかに疲れる。

みんなも疲れていたようで、すぐに寝てしまった。

次はもっとゆっくり見てまわりたいな。





3月31日


旅行の疲れから午前中はぐっすり寝ていた。

昼には以前購入した車のうち、在庫のあった半分の3台が納車される。


これで大学の入学式には間に合う。

残り半分の納車はもう少し時間がかかかるが、1台もあれば普通に足りるし。


「わー!すごーい!ドライブ行こうよー!」


「ちょっとだけ乗ってみる?明日の準備があるからすぐ戻るけど」


「私も乗りたいな〜!」


「運転の練習もしたいね!」


「大学まで行ってみよっか、美咲は帰りに運転する?」


「うん!してみたい!」


「みんなもちょっとずつ練習しようか」


「はーい!」


「明日は早起きしないとね!」



明日、4月1日は大学の入学式だ。

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