第65話 3月

タイトルでわかると思いますが、少しだけセンシティブな内容を含んでいます。

深くは触れませんが、この時期のことを書く上で触れないのは不自然なのでご了承ください。


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「ありがとう〜!助かったよ〜!」


「俺は何もしてないよ、渚の説得のおかげだからね!」


さっきまで渚の家で両親の説得に当たっていた。今は美咲の部屋に逃げてきた。

別に逃げる必要はないんだけど、渚の泣き落としでご両親には了承してもらったからな。


渚の父親は怖かったが、娘のやりたいことを止めるほど頑固でもなくて助かった。

母親は途中からこちらに加勢してくれたのもありがたかったし。


「ううん、浩介がいてくれたから成功したんだよ〜!私とお父さんだけの時は全然うまくいかなかったんだもん!浩介が来たらお母さんも味方になってくれたでしょ〜?」


なんか、母親の方は色々察しているような目つきではあったけど・・・大丈夫かな?

それで味方になってくれたような感じもある、のかな?少し不安が残るけど。


「これで浩介と一緒の学部に行けるね〜!嬉しいな〜!」


「渚、よかったね!ちょっと羨ましいなー」

美咲は文学部を目指している。

本当は美咲とも一緒が良かったんだけど、美咲は経済とか投資には興味なさそうだしな。


「うん!ここまできたら落ちないように頑張らないとね〜!」


「そうだね!がんばろー!」


「美咲の親は同棲には何も言わなかったの〜?」


「うん!もう浩介とも長い付き合いだからね!信頼してるからって!」


「そっか〜!それもそうだよね〜!聖奈は大丈夫かな〜?」


「浩介のことは言ってないって言ってたけどねー」


「ん〜、しょうがないな〜。私が一肌脱いであげるか〜」


「聖奈の両親とはほとんど会った事ないからなー、頼んだ」


「渚にかかってるからねー!」


「任せて〜!なんとかするから〜!」

こういう時の渚は頼もしい。

最初に美咲と付き合う時も、聖奈と付き合う時も、愛美の時も助けられた。





「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」


「お父さn、じゃないや、社長はいますか?中村浩介が来たといえば分かるはずです」


「少々お待ちください」

今日は、父親の不動産屋に来ている。

早めに場所を見つけないと、入学までに間に合わないかもしれない。


「お友達も一緒か。悪いな、今からちょっと予定があってな、この人に頼んでおいたから」

父は窓口に来るなりそう言って、部下の方を紹介された。

正直ありがたい。親の前で彼女達といるとボロが出そうだからな。


「社長に代わりまして、今日ご案内させていただきます。よろしくお願いします」


「お願いします。えっと、家を立てるための土地を探していて、出来るだけ広い方が良いんですけど」


「エリアはどのあたりをお考えですか?」


「どこら辺がいいかな?」

美咲達にも相談する。

大学からそう遠くなくて、今通ってる高校にも近いところがあればいいんだけど。


「愛美もすぐ来れる場所がいいよね!」


「そうだね〜!あと、お店とか地下鉄とかも近い方がいいかな〜?」


「でも先輩達は大学に近い方がいいんじゃない?」


「大丈夫だよー!聖奈達はなんとかなるからー!」


「卒業したら春休みに車の免許取るからね、ある程度なら大丈夫だよ」


「でも、あんまり広いとなー、聖奈掃除とか苦手だよー?」


「それは後々業者に頼むか、人を雇うとかすればいいし」


「まあ、頼まなくても私が掃除とか好きだからねー!」



「じゃあ、中央区のこの辺りでいいところありますか?」

地図を指差しながら店員さんの質問に答える。

夏の花火大会が開かれる大きな公園の側だ、高校の近くでもある。


「予算はどのくらいで想定されていますか?」


「一応15億程度で考えています」


「はい?すみません、もう一度宜しいでしょうか?」

そりゃびっくりするよな。俺がこの人の立場で、高校生がいきなりこんな額出してきたらびっくりしただろう。


「15億です」

短くはっきりと答える。


「え、あ・・・はい。わかりました、しかし15億とはまた。あ、えーっと、いくつか候補をご紹介しますね」

少し動揺が見えたが、ちゃんとプロらしく対応してくれた。

教育もしっかりされているらしい・・・と上から目線で物を言うのは失礼か。


「ここ良いんじゃない?少し狭いけど」

見せてもらった資料の中から、一つ良い場所を見つけた。


「どれどれー?」

「高校にも近いね〜!」


「ここはこの空き地と、隣に弊社が管理している空き家が幾つか建っているのですが、これらを取り壊して一つの土地としてご活用いただけますので、広さに関しても問題はないかと思います」


「ここにする?合わせても余裕で予算内だし」


「良いんじゃないかな?お店とかも近所にあるし!」

「私もここで良いと思うよ〜」

「聖奈も良いと思う!」

「ここなら私も学校帰りに寄れそう!」


「じゃあ、ここ実際に見ることってできますか?」


「はい、大丈夫です。この後向かわれますか?」


「じゃあお願いします!」


現地で確認した後、広さも環境も問題はなかったので店舗に戻り、申し込みをすることにした。

ローンなんか組めないので、現金一括だ。


あとは設計事務所を紹介してもらって、家をどうするか考えないとな。

家を建てるというのもなかなか一苦労だなこれは。


というか今から取り壊して、建て始めて間に合うのかな?

まあ最悪、マンションでも買えばいいか。


ひとまず入学までの一番大きな課題をクリアできた。

あとは幾つかの課題を乗り越えて、大学に合格するだけでいい。


同棲生活を想像するとワクワクする。

ただ、このあと日本は大変な状況になってワクワクどころではないが。






3月


この日も普段通り学校に登校し、午後の授業を受けている。


前世では、授業中にもかかわらず携帯をいじっていてそのニュースを知った。

家に帰ってからのニュース番組を見て、唖然とした。


被災地から遠く離れた九州では、頭では大変なことが起きていることをわかっていても、映画やドラマを見ているような、非現実的な光景に実感は湧かなかった。


実際に自分が体験することになったのは、5年後だった。

幸いにもほとんど被害はなかったが、とても怖かったことは覚えている。


未来を知っていてもどうにもならないこともある。

たとえ、事が起きる前に言ったとして1人の高校生など誰も信じないだろうし。


まだ信用取引が出来る歳になっていなくてよかった。

もちろん、これを利用して取引するつもりもなかったが。


そこまでして儲けようとは思わないし、必要もない。

これから先、覚えていることだけでも十分に稼ぐことはできる。


今出来ることは、受験勉強をすることと、多少なりとも寄付をすることくらいかな。

目の前の出来ることをするしかない。

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